Z世代の女性向けエッセイ投稿サイト「かがみよかがみ(https://mirror.asahi.com/)」と「AERA dot.」とのコラボ企画は第2弾。「わたしと『母親』」をテーマに、エッセイを募集しました。多くの投稿をいただき、ありがとうございました。
投稿作品の中から優秀作を選び、「AERA dot.」で順次紹介していきます。記事の最後には、鎌田倫子編集長の講評も掲載しています。
ぜひご覧ください!
* * *
「いい方にいってるよ!」
亡き母の声は、ちょっとした瞬間に私によびかけてくる。
味噌汁の匂い、庭の花、鳥のさえずり……。「菖蒲が咲いたね。お風呂に入れようかね。いい方に向かうね。楽しみ」などなど……。
母は、自然を楽しむ名人だった。特に、自然の恵みを受けた野菜に感謝し、食を楽しむことを大切にしていた。
◎ ◎
私は小学校低学年ごろまで好き嫌いの激しい子で、母を随分困らせた。農家で育ったのに、ご飯も野菜も嫌いだった。母や祖母と宿坊に泊まったときも、精進料理に見向きもしなかった。
記憶にあるのは、母が祖母に相談している困惑した顔。「パンはないって言われた」という母の低い声。子供心にも、「パンを食べたい!」と駄々をこねた自分が、母を困らせていると気づいた。
そんなある日、食卓に並んだ梅干し。目の前に、「ばあちゃんの梅干しをじいちゃんのご飯にのせたら、すごいことになるよ。元気もりもり!」と母の笑顔。母の歌うような面白い言い方に、くすっと笑ったことを覚えている。