今年も全国各地でクマの出没が相次いでいる。環境省は、市街地でも猟銃を使ったクマの駆除を「警察官の指示なしで可能」とする鳥獣保護管理法改正の方針案を取りまとめた。だが、住宅密集地域での安全確保や発砲の判断、事故が起きた際の責任の所在など、課題は山積している。
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5月29日昼前、JR米沢駅(山形県)の西600メートルほどのところにクマが出没した。現場に近い小中学校はただちに下校の措置をとった。クマを目撃した観光客は悲鳴を上げた。クマは市内を流れる最上川の河川敷を移動し、姿を消した。
市街地にクマが現れたら?
クマが街なかに現れたら、どうすればいいのか。
「街なかを徘徊するクマへの対処は容易ではありません。法律が改められたとしても、実際に市街地で猟銃を発砲することは限りなく難しい」
札幌市の環境共生担当課・熊対策調整担当の白水彩課長はこう漏らす。昨年度、札幌市のクマの出没件数は過去最多の227件だった。市街地での出没も増加している。
衝撃的だったのは、2021年6月18日朝、体長約160センチ、体重約160キロのクマが市の中心部に現れた事件だ。通勤途中の男性ら4人を次々に襲い、重軽傷を負わせた。住宅や学校、ショッピングセンターの合間をぬって移動を続けるクマ。市民がクマに襲われる恐れがあった一方、街なかでハンターが発砲すれば、事故の危険もあった。結局、同日昼前、住民の安全確保が比較的容易な緑地に移動したクマに対し、警察官の指示でハンターが発砲し、駆除した。
クマの出没が多い札幌市では、20年以上前から市と警察、猟友会が協力してクマ対策に取り組む体制をつくり上げてきた。警察は積極的に猟友会と訓練を重ねてきた。それでも現場で発砲を判断し、実施するのは「非常に難しい」という。
警察官が命令しハンターが撃つ
現在、鳥獣保護管理法は第38条で住宅集合地域等での銃猟の使用を禁じている。ただし、警察官が人命にかかわる差し迫った状況と判断して命令を出した場合に限り、ハンターは警察官職務執行法(警職法)に基づいて発砲できる。
つまり、市中にクマが出現した緊急事態でも、警察官が命令を出し、ハンターが撃つ、というプロセスが必要だったのだ。
しかも、警察官の命令は「緊急避難」を前提としているため、「クマを目の前にしたハンターが襲われるか襲われないかの状況にならないと下りない。その間、ハンターは命の危険にさらされ続ける」と、秋田県猟友会の佐藤寿男会長は訴える。
警察官が躊躇して、警職法が発令されなかったり、発令まで時間がかかったりする場合が少なくない。クマがいる以上、その間も人が襲われるリスクがある。そのため、鳥獣保護管理法の改正に向けた動きが急ピッチで進んでいる。