AERA 2024年6月10日号より

 夫の不倫が判明した後、いっさいの家事を夫にやらせることにした妻は「1日100円で弁当を作れ」と無茶を命じたり、風呂場に少しでも汚れが残っていたりすると、殴る蹴るの暴力を夫にふるっていた。

 優柔不断でなんでも妻に相談しないと決められない夫がターゲットになるケースもある。妻は常にイライラし、「あんた、能無しよね」ととことん夫を見下していく。「ビール買ってきて」と言ったのに、間違えて日本酒を買ってきた夫に「なんで私の言うことを聞いてないのよ。買いなおしてきなさい!」とお酒の瓶を夫の顔に投げつけた。額が切れて出血した夫が救急車で搬送され、DVが判明するケースもあったという。

「女性は体力面では男性に負けるという自衛本能があるため、とことん言葉で責め続けるんです」(栗原理事長)

性加害者の多くが、幼少期に両親の夫婦げんかを見てきたか、虐待を受けてきた人だという。一方で一見、妻が加害者に見えるケースでも、妻とコミュニケーションをとろうとしない夫の「サイレントDV」が引き金になっていることも少なくないという。

「ステップ」では、米国の精神科医が生み出し、画期的な成果を収めている「選択理論」に基づくDV更生プログラムを15年前から導入している。

「怒りをセルフコントロールできるようになるので、怒鳴ったり叩いたり、否定したりする『怒り行動』が出なくなります。治療後はカップルの関係が修復され、再び同居する方々もたくさんいます」(栗原理事長)

 1年間にわたって、「過去と相手は変えられない」ことを認知していく更生プログラムについて栗原理事長はこう解説する。

「認知行動療法と似ている点はありますが、選択理論はさらに論理的に、その認知がなぜ必要なのか、という根っこの思考を深める訓練に力点をおいています。理論的な手法なので男女ともに高い教育を受けた人ほど腑に落ち、効果が出やすいのが特徴です」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2024年6月10日号より抜粋

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