東京五輪の直後から、パリ五輪で勝つための準備を始めた五十嵐カノアさん。勝負の時が近づくにつれて感じるのは、プレッシャーではなくワクワク感だという。AERA 2024年6月10日号より。
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「試合前にどう過ごすかは、特に決めていません。みなさんは驚くかもしれませんが、東京五輪のファイナルの前夜も、友達と電話で喋り、好きなものを食べ、寝たくなったら寝る。いつもどおりに過ごしていました」
2021年に開催された東京五輪では、日本中の期待を背負い、初代銀メダリストとなった。気持ちの準備は必要なかったのだろうか。そう聞くと、笑って答える。
「もう、サーフィンは20年くらいやってきたこと。試合前だから特別なことをしなければいけない、という感覚はありません。五輪も同じ。特別な準備ではなく、いつも通りのことをやればいい。それが東京五輪を通して分かったことかもしれません」
アスリートのコンディショニングとしては、とても自由度が高い。ただ、それは無責任とは違う。
「自己責任です。こうしないといけない、と強制するのではなくて、自分の責任で自分をコントロールして、自由に面白く生きる。自分の意思でやりたいことを選んでいくことが、良いパフォーマンスに繋がっていくと感じています」
世界で育まれた自立心と、日本人としての自尊心。両輪のバランスが強さを支える。2022年には世界チャンピオンも経験し、パリ五輪への手応えはある。
「東京五輪はサーフィンが初採用で『五輪とはどう戦うべきか』が分からないと思い込んでいました。でも今の僕には五輪のメダルという経験がある。東京五輪で足りなかったメンタルをレベルアップしてきた自信があります」
東京五輪では、親戚や友人、ファンが喜ぶ姿を見て、五輪のインパクトを知った。
「みんなに支えてもらって今がある。パリ五輪では、みんなが幸せになるようなサーフィンをして、金メダルを日本に持ち帰りたいと思います」
(ライター・野口美恵)
※AERA 2024年6月10日号