親しい近所の店で特大バインセオを頂く。わざわざどこかへ行かずとも幸せはここにあり(写真:本人提供)

 実はこんなことになった理由は自分にもあり、というのはここ8年ほど渋谷を避けているのだ。工事のたびに巨大化する駅は、同じ名前の駅とは思えぬほど長い距離を歩かねば乗り換えができなくなり、それでも渋谷駅を利用する限りは黙って「当局」の言いなりになるしかない。それはよく考えたらえらく恐ろしいことのような気がして、利用そのものを見直した。個人的にマイナーな抵抗運動をしているのである。

 でも、渋谷を避けているという話をすると、案外8割くらいの人が「わかる!」とおっしゃるんですよね。わかりにくい、行きたい場所がない、人が多すぎる、など理由は様々だが、共通しているのは、もうあそこは「自分の街」じゃないという思い。誰のため、何のためなのかトンと分からぬまま馴染みの場所がどんどん壊されていく街への違和感と悲しみ。そんなものを置き去りにしてどこまでもピカピカになっていく渋谷が私は怖い。

AERA 2024年6月3日号

著者プロフィールを見る
稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

稲垣えみ子の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
「更年期退職」が社会問題に。快適に過ごすためのフェムテックグッズ