1年前の取材時に「音楽は誰かと一緒に作ったり歌ったりすることがすごく好き」と話していた望海だが、「今回は自分の思いから生まれているので、歌っていていつもと違う感覚がある」と語る。
普段は自分があまり思っていないことでも、役柄や人の歌を歌っているときは、ふと自分の中の蓋が開いていく感覚なんです。自分の中にこんな気持ちがあったんだと知っていくことが面白いんですね。でも「Breath」に関しては、自分の中で思っていることやアンジェラさんにお伝えした気持ちがどんどん深くなっていくという感覚です。ただ、しばらくは自分の歌という感じがしませんでした。アンジェラさんの声が素敵すぎて、私が歌うよりアンジェラさんが歌うほうが素晴らしいんじゃないかと思ってしまって(笑)。
体に優しく生きよう
やさしいメロディーと相まって、言葉が今を必死に生きている女性たちの疲れた心に染み渡る。そんな歌だ。
「元気になろうよ」みたいな励ましソングではないんです。それもアンジェラさんとお話ししたんですけれど、本当にそっと寄り添ってくれる。気づいたらそっと背中を押してくれる曲。私がお伝えした思いをきちんとアンジェラさんが書き起こしてくださいました。
この歌と出合ったことで、すごくシンプルなところに立ち返ることができたと思っています。人っていろいろな顔を持っていますよね。仕事の自分だったり、友達と会っている時の自分だったり。それがこの歌で、一人になったときの自分をすごく実感できました。孤独ということではなく、一人でいる時間を大切にすることで社会に出たときにまた頑張れるし、何かあっても生きていける。それだけでいいんだって気づかせてもらえた。とてもポジティブになれました。この曲は自分の人生を生きるための道しるべみたいなものです。
コンサート活動のみならず、今年は年始からミュージカル、時代劇と相変わらずの忙しさ。6月からは帝国劇場で「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」も始まる。
宝塚も今やっている舞台も基本的に変わらないのですけれど、退団してから多くの人に出会い、よりお芝居のことを知り、課題がもっと見えてきました。宝塚の中での自分のあり方と現在のあり方では、ずいぶん変わったなと感じます。退団してから3年経っても舞台に立ち、しかもこうして歌まで歌えるなんて想像すらしていませんでした。
今年は自分自身の体に優しく生きようという目標を立てたんです。私は一つのことに集中することがすごく好きなので、今は体にいいことをとにかく調べたり、人の話を聞いては取り入れたりしています。これからももっと人生を充実させて、多くの人に力を届けていけたらいいなと思います。(文中一部敬称略)
(構成/フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2024年6月3日号