さびれた写真館を営む鮫島(平泉)のもとに弟子入りを志願する気鋭のカメラマン・太一(佐野)が訪れる(c)2024「明日を綴る写真館」製作委員会 (c)あるた梨沙/KADOKAWA

――佐野が演じたトラウマを抱えた太一はあてがきによるものだ。

佐野:監督から「佐野くんにぴったりの役があるからぜひ演じてほしい」というメッセージと一緒に作品の詳細が届きました。その後、役作りの話は一切なかったんですが、撮影前に「役への理解度を高めたい」と思い、脚本の中井由梨子さんとお話しさせていただきました。そこで「原作の太一は人とのコミュニケーションができないけれど、佐野くんが演じることを踏まえてコミュニケーションをしない太一にした」と言われた。確かに僕にはそういうところがあるので「見抜かれてる」と怖くなりました(笑)。「変に装飾して役作りするのではなく、トラウマを背負った佐野晶哉のままでいてくれたら太一になるから」とも言ってくださり、自分のままで演じました。中井さんは「20歳のソウル」もあてがきしてくださいましたが、今回はより僕のことを知ってくださった状態でのあてがきだったので、安心しきった状態で撮影に臨みました。成さんとの現場での会話で太一がどんどん深くなっていった気がしています。

こんな仕事は他にない

平泉:佐野くんは素直でチャーミング。多分心がまっすぐなんでしょうね。芝居も無理なくすっと出ていくのがすごく素敵。受けの芝居がどんとしていて立派なのはおそらく自然体だから。「よーい、スタート!」という声がかかると身構える人が多いけれど、佐野くんは普通の顔をしてるのが良い。

佐野:とても嬉しいです。「20歳のソウル」で成さんとご一緒させていただいた時は3日間程度でしたが、今回は3週間ご一緒させていただいていろいろな話をお聞きし、成さんの歴史の分厚さを感じました。僕より58歳上の大先輩なのに、「今のセリフ大丈夫だったかな?」と聞いてくださったり、不思議なくらい謙虚なんです。役者さんとしての力だけでなく人間力も盗みたいと思いながら過ごしていました。自分はずっとこの世界で生きていくと信じていますが、勝負の世界ということもあり、たまに「向いてないのかな」と思ったり、つらくなることがあって。成さんに「なんでそんなに謙虚なんですか?」と質問したら、「60年の役者人生の中で一度も自分の芝居に満足したことがない」とおっしゃった。加えて「正解がないものを追い続けられる仕事は他にはないと思う」と言ってくださり、改めて「こんなに素敵な仕事はない」と思いました。だからこそ「58年後の80歳になってもこの世界にいたい」と強く思うようになりました。

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