演じるのではなく

平泉:僕が撮影所にいた頃は、近くに勝新太郎さんや市川雷蔵さんや若山富三郎さんがいて、「平泉! 『おはようございます』は1回でいいんだ!」と言われて謝っていたような時代(笑)。現場では怖い方でも映画を観るとすごく優しく見えることに戸惑いながらも、夢中で走ってきたように思います。

 僕の理想とする芝居は、上手にセリフを喋るのではなく、どちらかというと訥々としているけれどハートのこもった一言を口にする芝居。俳優は器用になる必要はなく、どれだけ素直に自分を出せるかが大切。多少時間はかかるけど、芝居の良し悪しを決めるのはそこだと思う。佐野くんを見ていると「俺はこの年齢の時にこんなに素直な芝居ができてなかったんじゃないか」と思います。

佐野:小さい頃から舞台をやっていて、2千人規模のホールでマイクを使わずにお芝居をしていたところから映像の世界でもお仕事をさせていただくようになり、自分のダイナミックすぎるお芝居にコンプレックスを抱くようになりました。でも「20歳のソウル」で出会った秋山監督が「演じるのではなく存在するんだよ。棒立ちでもちゃんとそう見えるようにするから」と何度も言ってくださった。以降はその言葉をずっと胸に秘めながらお芝居をしています。

平泉:秋山監督はとても大切なことを言っていたんだね。演じるのではなく存在する。その通りだと思う。その状態で話すと生きた言葉が出てくるんです。

(構成/ライター・小松香里)

AERA 2024年6月3日号

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