そんな彼の実力を改めて思い知らされたのが、1月24日の『サンデージャポン』(TBS)だった。脳梗塞で入院した爆笑問題田中裕二の代役として、上田がサプライズ出演を果たしたのだ。

 田中の相方である太田光は、上田と2人で『太田上田』(中京テレビ)という番組にも出演しており、昔から付き合いの深い盟友である。

 番組冒頭、太田が「日本一のMCが来てくれました」と上田を紹介した。太田以外の出演者には、田中の代役として誰が出てくるのか知らされていなかったため、スタジオ中が騒然となっていた。

 上田は、初めて仕切る番組とは思えないほど、生き生きとした立ち振る舞いを見せていた。上田が得意の「例えツッコミ」を放ち、太田がそれにわざと大げさに感心してみせると「粒立てるな」と釘を差した。

 扱うニュースの内容も出演者の顔ぶれもほとんど変わっていないのに、司会が変わっただけで別の番組のような雰囲気になっていた。

 MCとしての上田の強みは、押し引きの加減が絶妙なところだ。基本的には決まった流れに沿って番組を進行させていくのだが、それがあまり冷たい印象を与えない。自分にスキを作り、共演者にイジられると受け身をとったりするので、和やかな雰囲気がかもし出される。

 MCの1人である山本里菜アナウンサーから上田に対して「将来、本県知事を狙っている上田さんは、何かないですか?」といったイジりが飛び出すこともあった。恐らくこれは台本としてあらかじめ用意されていたものだろう。

 イジられる余白を残しながらも、強気に番組を進めていく。ときには「例えツッコミ」を駆使して自分から笑いを取りに行くこともあるが、決してでしゃばりすぎない。生放送の司会を突然任されて、ここまでスムーズにのびのびと仕事をこなしていること自体が奇跡的である。

 上田晋也は司会が上手い。当たり前すぎてもはや誰も意識して考えなくなっていたそんな事実が、この機会に改めて浮き彫りになった。すごいと思われなくなることが一番すごい。一流の職人の仕事とはそういうものなのだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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