『MONSANTO YEARS』NEIL YOUNG + PROMISE OF THE REAL
『MONSANTO YEARS』NEIL YOUNG + PROMISE OF THE REAL
この記事の写真をすべて見る

 具体的な事件や事柄をテーマに作品を創造しながら、そこに普遍性を持たせること。ロックにかぎらず、どんな分野でも、そういった才能や感性こそが、優れたアーティストの証といえるだろう。失恋でも、家族や友人の死でも、あるいは、出会いの喜びでも、それ自体をメロディや言葉にすることはそう難しくない。問題は、永遠性というか、どれほど多くの人たちが、彼らの生き方や考え方をそこに投影させ、そして共鳴できるか。そういうことなのではないだろうか。

 ニール・ヤングは、早い時点から、ずっとそういうことをやりつづけてきたアーティストだ。だから、1970年のある事件を描いた《オハイオ》は、あらゆる不当な暴力に抗する声として、今も多くの人の心に届く。ブッシュとか、ペプシとか、コークとか、特定の人や会社の名前を歌い込んだ曲でも、深い部分で彼は、それらに象徴される、もっと大きな問題や矛盾を訴えているのだ。

 2015年夏に発表されたスタジオ録音アルバム『モンサント・イヤーズ』では、具体的な対象として、遺伝子組み換え作物(GMO)の種の世界シェア約9割という巨大企業モンサントの名前が、タイトルにまで使われている。GMOの表示を義務づける法律がバーモント州で可決されたことに反発し、スターバックス社と共同で法的手段に訴えたことが直接的なきっかけだという。「なんでもかんでも訳知り顔で攻撃しちゃって」という批判の声もあるようだが、30年にわたってファーム・エイドに取り組んできたニールとしては、当然の行動ではなかったのだろうか。メイン・トラック《ア・ロック・スター・バックス・ア・コーヒー・ショップ》にある「Let our farmers grow what they want to grow」というシンプルな歌詞にすべてが集約されているようだ。

 ファーム・エイドとの関連でいうと、ここでニールは、ウィリー・ネルソンの息子、ルーカスとマイカ、そして、ルーカスが2007年ころ大学の友人たちと組んだバンド、プロミス・オブ・ザ・リアルをバックに迎えている。クレイジー・ホースのメンバーの健康問題なども背景にあるようだが、若い彼らになにかを伝えていくことも、一つのミッションとして考えているのだと思う。ちなみに、プロミス・オブ・ザ・リアルという名前はニールの曲《ウォーク・オン》からヒントを得たものらしく、彼らの出会いと合流は運命的なものだったのかもしれない。

 録音が行なわれたのは、ロサンゼルスの西100マイルほどの距離にあるオクスナードという町のテアトロ。古い映画館をダニエル・ラノワが、その雰囲気を守りながらレコーディング・スタジオに改装したところで、かつてウィリーもアルバムを録音したことがある。ここでも、ウィリー・ネルソンの神格的な存在が、いい形で影を落としているわけだ。

 ニールはそのテアトロで、若い彼らと、あくまでも楽しみながらアルバムを仕上げた。たとえば、トイレをエコー・チェインバーに使ったりもしている。記録映像に残された笑顔も、じつにいい感じである。そう、訳知り顔でも、したり顔でも、なんでもないのだ。 [次回12/16(水)更新予定]