元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
* * *
前回、友人の誘いで長野の山菜採り体験をさせて頂き、その圧倒的な「生えっぷり」に驚いたことを書いたが、個人的に一番狂喜したのはツクシの豊富さである。何しろムーミンに出てくるニョロニョロの如く、もうそこらじゅうにみっしり生えまくっているんですよ。ツクシ好きとしてはむろん歓声を上げせっせと採取したのだが、ふと気づけば地元のばあちゃんが口をあんぐり開けてこちらを見ておられまして。そんなのここらの人は誰も採らないヨと言うのだ。えー美味しいのに! と構わず手当たり次第採りまくり、ホクホクと宿泊先の台所付き古民家に戻ってすぐ、私はばあちゃんの真意を理解した。
ツクシを食べるには、細く柔らかい茎にピッタリミッシリ張り付いたハカマを一本ずつ取るという絶妙にイライラする作業が欠かせない。とうてい1人ではできず、結局同行の皆様が総出で「茎が折れた!」などと叫びながら少なからぬ時間をかけようやく作業終了。これでは他の山菜の処理時間が削られる一方である。全くもって申し訳なし。