自分がなんの競技に出たのかも覚えてないや。出たのかな。出たはずだ。そういうのに背を向けてズル休みするような気概もないハンパ野郎なのだ、私は。ただただ記憶からは抜け落ちている。

 運動会はやっぱりパン食い競走、飴食い競走、ムカデ競走、借り物競走、大縄跳び……なんて牧歌的な種目が並んでるほうがホッとする。昔はよく町内や社内での運動会があって、こんなのんびりした競技を老若男女で楽しんでいたっけな。そんな運動会も今はなくなってしまった。

 落語家になってから「運動会に参加しませんか?」と誘われたことがある。20年近く前から、年に一、二回のペースで呼んでもらっていて、今でも何年かに一度顔を出している某町の落語会。その打ち上げの二次会で使っていたキャバクラの運動会によかったら来ないか? と誘われた。

ママ「来週の日曜日、運動会なんだけどよかったら一之輔さんもどうですか?」

私「急だなぁ、来週は無理ですよ。運動会ってどこのです?」

ママ「うちの店の!」

私「店?」

ママ「うちの女の子とお客さんで年一で運動会やってるんです。近所の小学校の校庭借りてね、朝から夕方まで! 楽しいですよ!」

 キャバクラの、お客とキャストが、運動会。なんかいかがわしい五七五の響き。

ママ「違うんです! 本気でやるんですよ! 走ったり、跳んだり!」

私「本気? お店のファン感謝デー的なヤツじゃないんですか?」

ママ「違う違う! 100メートル走、ハードル、幅跳び、高跳び……」

私「陸上競技大会じゃないですか!」

ママ「そうですよ。運動会って呼んでるけど、正直言ってこれは戦いです」

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