ミッツ・マングローブ
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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載「今週のお務め」。33回目のテーマは「星野源さんの呼びかけ」について。

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 先日、星野源さんが音楽フェスに出演した際、通り一遍な観客の盛り上がり方に対し、「(いつものはやめて)好きに踊ってください」と呼びかけたことが話題になっています。

 似たような事例は今までにもありました。「バラードでは手拍子しないで」とか「大声で歌うのは遠慮して」とか「ペンライト禁止」など。しかし、あくまでそれらはアーティストと顧客(ファン)との間での決め事やルールであることがほとんどであり、不特定多数の観客相手に「手を前後に振るフェス独特のノリをやめませんか?」と提案した星野源さんの行動は、なかなか勇気ある、そして意義深いものだと言えるでしょう。

 とかく日本人は、音楽に身を任せるのが苦手だと言われています。私も、生まれて初めてディスコを体験した時(小6の修学旅行での出前ディスコ)は、爆音で流れるユーロビートの中でただ立ち尽くすのが精一杯(ただし最初の1時間だけ)でした。家ではアイドルの振りやマドンナのダンスを延々と真似しているというのに、周囲に他人の目があるのを意識した途端、音に「ノル」ことは世界一恥ずかしい行為になってしまう。

 私が、ドラァグクイーンになったのも、「人と一緒にダンスフロアで踊るのが恥ずかしいため、いっそお立ち台でスポットライトを浴びてしまった方が伸び伸び踊れる」というのが理由のひとつだったりします。「集団の中で個性を出すぐらいなら、はなから指をさされる側に立ってやれ」という理屈です。

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