
「強い柱」の死の影響
死にゆく煉獄のそばで、鬼の猗窩座に向かって「煉獄さんは負けてない!!」と叫び、大粒の涙を流した炭治郎だったが、それと同時に、まったく歯が立たなかった自分の弱さに思い悩むようになる。
「こんな所でつまずいてるような俺は 俺は… 煉獄さんみたいになれるのかなぁ…」(竈門炭治郎/8巻・第66話「黎明に散る」)
自分に自信がないのは炭治郎だけではない。音柱・宇髄天元は、煉獄の訃報が伝えられた際に、「上弦の鬼には 煉獄でさえ負けるのか」と口にした。上弦の陸(=六)と呼ばれる鬼の妓夫太郎(ぎゅうたろう)は、宇髄に「選ばれた才能だなぁ 妬ましいなぁ」と言ったが、宇髄は「才能? ハッ」と鼻で笑う。さらに心の中でこんなふうにつぶやいた。
「俺は煉獄のようにはできねぇ」(宇髄天元/10巻・第87話「集結」)
ふだんは“ド派手”で強気な宇髄の、めずらしい弱音の場面だった。
「選ばれた者」の強さとは?
那田蜘蛛山の戦いでは、水柱・冨岡義勇と蟲柱・胡蝶しのぶの圧倒的な強さが描かれ、後輩剣士たちは勇気づけられた。しかし、無限列車、遊郭、刀鍛冶の里の戦いを通して、「柱」ですら自分の実力にまだまだ不足があると感じていることをそれぞれに吐露している。短期間でこれほどまでに強くなった炭治郎も、「俺はきっと選ばれた使い手ではないのでしょう」と口にする場面があった。しかし、柱も炭治郎たちも、苦しい戦いをやめようとはしない。
「でも それでも 選ばれた者でなくとも 力が足りずとも 人にはどうしても退けない時が あります」(竈門炭治郎/10巻・第81話「重なる記憶」)
鬼殺隊は戦わねばならない。鬼のいない平凡で平和な日常を、安心して眠れる「夜」を取り戻すために。