ヒコロヒー/1989年、愛媛県生まれ。近畿大学の落語研究会、松竹芸能大阪養成所を経て2011年にピン芸人としてデビュー。以降、多くのテレビ番組に出演。俳優、エッセーの執筆なども行う(撮影/写真映像部・高野楓菜)
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 ピン芸人・ヒコロヒーさんのはじめての短編恋愛小説集『黙って喋って』がSNSで話題だ。歌人の俵万智さんも「ほんっっっとうに良くて、恋する誰かと語り合いたい」などと自らの書評とともに投稿している。1月31日の発売後、AERAでのインタビューの様子を振り返る。(AERA dot.で2月18日に配信された記事です)

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 人気芸人・ヒコロヒーさんが、短編恋愛小説集を上梓した。いまをサバイブする人々への愛ある突っ込みであふれている。AERA 2024年2月19日号より。

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――Webメディア「かがみよかがみ」で連載していた短編小説18編が、このたび一冊にまとまりました。

ヒコロヒー:連載当初は日常をネタにしたエッセーを書いたのですが、当時の編集長から「恋愛ものを書いてみないか」と言われたのが始まり。文字数も2千字程度と短かったので、「エッセーよりもネタを考えなくていいからいいかな」と軽い気持ちで引き受けました。

――小説を書く時間を捻出するのは大変だったのでは。

ヒコロヒー:そうでもないです。1回分だったら移動中に30分とかで書いていました。

――収録されているのはすべて短編です。2千字程度と文字が少ない分、テーマが明確でないと書くのが難しかったように感じるんですが、テーマはどんな時に思いつくのでしょうか?

ヒコロヒー:締め切りの日に考えつくことがほとんどでした。

撮影/写真映像部・高野楓菜

恋愛小説は読まない

――よく間に合いましたね。

ヒコロヒー:絞り出す……感じでしょうかね。日常的に「これは小説のネタにしよう」なんて考えたり、メモをとっているとかではまったくなくて「さあ、書くぞ」というときに思いつく感じです。

――影響を受けた作家や作品などはありますか。

ヒコロヒー:それこそ連載当初は「中島みゆきさんの曲をテーマに書いてみよう」と試みているんです。読んでいる人が「あれ? これ中島みゆきの歌をモチーフにしてない?」とぼんやり気がつく程度ですが。でも途中からその設定を私も編集部も忘れてしまい(笑)、以降、思いつくままに書きました。

――お笑いと小説、共通することはありますか。

ヒコロヒー:共通点は、白紙から文字を起こすってことですね。他の人がさわってない島の土地を掘り起こしに行くというか……そういったところは似ていると思います。ただ、お笑い芸人は人を笑わせないといけない。だから一言一言、「どうしたら笑ってもらえるか」を、それはもう真剣に考えます。構成も「笑かす」「笑ってもらいたい」が第一優先です。小説は別に笑ってもらわなくてもいいわけですから、多少気楽です。

――人物描写や情景描写が的確だったのは、一言に意味を込める作業を、芸人として日頃から繰り返されているからなんですね。

ヒコロヒー:「お笑い」というジャンルは無形なんですね。目の前の人に笑ってもらう、という無形のものの積み重ね、繰り返しなんです。今回、連載が一冊の本にまとまって痛感したんですが、小説は本という形になる。「形になる」というのは、お笑いにはなかなかないことで、結構うれしいことだなと気がつきました。もちろん、芸人もDVDとか何かしらの形に残ることはありますが、本になるというのはまた違う喜びでした。

(構成/編集部・工藤早春)

AERA 2024年2月19日号より抜粋

撮影/写真映像部・高野楓菜