オトバンクの佐伯帆乃香さんは最初の1冊に『もものかんづめ』(さくらももこ)を薦める。ナレーターはまるちゃんの声で知られたTARAKOさんが担当した(写真:オトバンク提供)

 近年、こうした新しい読書体験を提供するサービスが広まっている。目立つのが隙間時間を活用できるサービスだ。飲料メーカーに営業職として勤める30代の男性は言う。

「まとまって本を読む時間が取れなくなり、月に10冊くらいは読んでいた学生時代と比べるとインプットが相当減りました。これではいけないと思い、車の運転中にオーディオブックを聞いたり、朝食時に要約サービスを使ったり、少しでも本に触れられるようにしています」

 要約サービスは、書籍の内容を数千字程度にまとめて掲載するもので、ビジネス書や新書を中心にラインアップするサービスが複数ある。1冊10~20分程度で「読了」できるとあり、ビジネス書を多く読みこなしたい会社員らを中心に利用が広がっている。

読者の裾野を広げる

 作品を提供する側である出版社から見ると、こうしたサービスの実入りは必ずしも大きくない。ただ、期待もあるという。老舗出版社・平凡社の下中順平社長はこう話す。

「オーディオブックはナレーション料など制作コストがネックで、今のところ提供したコンテンツで大きな利益を得たことはありません。要約サービスはそれ自体で収益化したいというより、『もっと深く読みたい』と思う読者につながればと、宣伝の効果も期待しています。サービスがマネタイズされて利益になり、著者に還元されるという前提の上で、コンテンツの多様化は読者の裾野を広げる可能性があると考えています」

 要約とは別の視点から忙しい人向けの読書サービスを始めた人もいる。インターネットスタートアップ「NOT SO BAD」代表の大西智道さんは18年、ネット上の電子図書館「青空文庫」に掲載されているパブリックドメイン作品を分割して配信する「ブンゴウメール」を開発した。著作権が切れた名著を選び、30分割して毎日メールで配信してきたという。1カ月かけて名作を読み終える設計だ。

 最初に配信したのは『走れメロス』(太宰治)。短めの作品なら1日わずか3分程度で文豪の世界に触れられる手軽さと、利用者がリアルタイムで同じ作品を読む臨場感が受け、SNSなどで広まった。『機械』(横光利一)や『山月記』(中島敦)などが特に反響が大きかった。

「サービスを始めて気づいたのは、『聞いたことはあるけれど読んだことがない』作家さんがこんなにもいるということ。自分自身が楽しみながら運営してきて、50作品以上を読むことができました」(大西さん)

 なお、大西さんが選ぶ作品をメール配信するサービスはこの春でいったん終了するが、今後は多数の作品リストの中から読みたいものを選び、プッシュ通知で配信されるサービスに生まれ変わる。(編集部・川口穣)

AERA 2024年4月29日-5月6日合併号より抜粋

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