オーディオブックには単なるオーディオ化に留まらない魅力があるという(写真:オトバンク提供)

 耳で聴くオーディオブック、要約サービスなど「紙の本を読む」以外の読書との接点が増えている。その魅力を現場の人たちに聞いた。AERA 2024年4月29日-5月6日合併号より。

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 再生ボタンを押した途端、驚いた。セミの鳴き声、風鈴の音などの効果音を背景に、朗読が始まる。登場人物それぞれに声優が当てられ、感情の起伏がセリフとともにストレートに伝わってくる。オーディオブックサービス「audiobook.jp」で“読んだ”『汝、星のごとく』(凪良ゆう)は、まさに本格的な朗読劇だった。出演する声優は18人、12時間超の大作だ。

 オーディオブックはその名の通り、音声化した書籍を聴取できるサービスだが、単なるオーディオ化に留まらない魅力があるという。audiobook.jpを運営するオトバンクの佐伯帆乃香さんはこう説明する。

「文芸書では何人もの声優やナレーターの表現で映画のシーンのように脳裏に情景が浮かんでくるものが多く、ビジネス書やエッセイも『この書籍はこの人のこんな声で読んでほしい』と、1冊ずつにこだわりが込められています。音声だからこそできる表現方法が魅力の一つです」

急速に市場が拡大

 1980年代からカセットブックなどが存在したが、オーディオブックが普及しだしたのはここ数年だ。ダウンロードコンテンツが一般的になり、ワイヤレスイヤホンなど機器の普及もあって急速に市場が拡大した。audiobook.jpも2017年に20万人程度だった会員数が今年2月には300万人を超えた。月額制の聴き放題で1万5千コンテンツ以上が聴取できるほか、単品購入できる作品も多い。23年のランキングを見ると、単品購入では『ユーモアは最強の武器である』(ジェニファー・アーカー、ナオミ・バグドナス)や『Deep Skill』(石川明)などのビジネス書が多く、聴き放題では『硝子の塔の殺人』(知念実希人)、『正欲』(朝井リョウ)といった文芸のベストセラーなど多彩な作品がランクインする。

「ビジネスパーソンの利用が多く、最も再生数が増えるのも朝の通勤時間帯です。ほかに、家事や作業をしながらの『ながら読書』、昔読み切れなかった本にチャレンジする『リベンジ読書』など多様な使い方をしていただいています」(佐伯さん)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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