倉田真由美さんと叶井俊太郎さん 撮影/東川哲也(写真映像部)

 いよいよ大型連休が始まった。普段は忙しく過ごしている人も、人生についてじっくり考えるチャンスだ。ゴールデンウィークは、過去に配信した記事の中から改めて読みたい人物ストーリーやその道のプロの言葉を紹介する(この記事は2023年12月25日に配信した内容の再掲です。年齢、肩書、日付等は当時)。

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膵臓がん、余命半年」の告知からすでに1年半。叶井俊太郎さん(56歳)は標準治療を受けない選択をし、今も仕事を続けています。「なかなか死ねない」と不満そうな叶井さん、涙と笑顔で支える妻・倉田真由美さん(52歳)。「がんと闘わない」で過ごした1年半の日々を聞きました。2月発売の週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院2024』から先行して公開します。

最初の病院の診断は胃炎

叶井俊太郎(以下、叶井) 今日は駅からここまで歩いて、もう疲れちゃったよ。もう、このソファから動かないから。いいよね。

――え? タクシーではなく電車でいらしたんですか? 

叶井 そうだよ。朝は特にタクシーつかまらないからね。

倉田真由美(以下、倉田) だいたいいつも電車ですよ。でも以前この人が優先席に座っていたら、高齢の方に怒られちゃったんです。「あなたが座る席じゃない!」って。

叶井 「オレ、末期がんなんスけど」と言いたかったけど、やめといた。証明できないし。

――叶井さんは現在、膵臓がんのステージ4だそうですが、がんが見つかったのは2022年6月だったんですね。

倉田 ひどい黄疸(おうだん)が出て、「これは何かの病気かもしれないから」って、大きい病院で検査してもらったんです。

叶井 そしたら「胃炎ですね」って。がんじゃないかって聞いたら「がんでこんなに黄色だったら、もう死にかけてますよ」って言われたんだよ。

倉田 しかも検査はレントゲンだけで、血液検査もしなかったのに胃炎なんておかしいでしょ? それで別の病院で検査を受けたら、今度は肝炎か胆石じゃないかと。でも結局「うちではわからない」って三つ目の病院を紹介されたんです。そこで検査したら「原因はわからないけれど、胆管が詰まっているせいで黄疸が出ている」と診断されたんです。

叶井 内視鏡で胆管にステント(胆管を通すための管)を入れる手術をしたら「怪しい影が見えるから、もう一回検査させてください」って言われて、2回目の検査のあとには「結果は、奥さんといっしょに聞きに来てください」って。

倉田 先生は言いにくそうだったよね。私、先生の顔を見た瞬間、ピンときた。これはマズイんだなって。

叶井 でもさ、わりとあっさり「膵臓がんですね。余命半年です」って言われたよね。

余命半年と聞いた瞬間 死ぬ覚悟はすぐにできた

倉田 検査の結果、膵臓がんのステージ3寄りの2b。抗がん剤でがんが小さくなれば手術も可能ですが、手術できても5年生存率は2割程度。治療しなかったら余命は半年、長くて1年。私はものすごくショックでボロボロ泣いたのに、あなたは全然フツーの顔してたよね。

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「治療より髪の毛のほうが大事」