ディランさんは子どもの要望に応えたいと考えている(撮影/大野和基)

自分が誰かを理解してもらう

 自分の父親についての情報があまりに少ないのは、子どもにとってはよくないとディランは考えた。その女性から直接会ってほしいと言われて同意したのは、自分が誰であるのかを理解してもらうためだったという

 共通するDNAにより家族に自分自身を見ることを、遺伝子ミラーリング(genetic mirroring)という。ディランは、自分の子どもが自分に会うことが重要である理由は、まさにこの遺伝子ミラーリングゆえだと言う。

「母親が自分の子どもの行動に理解できない部分があっても、私の行動を見ることで双方向に納得がいく。子どもも私と会うことで、自分の考えや行動がノーマルだと思えるのです」

 intentional parents(努力して親になろうとしてなった親)の場合、子どもができるまでに何万ドルも使っていることが多い。シングルマザーやレズビアンカップルの場合、自然に任せても子どもはできない。

「intentional parentsの子どもに対する愛情は、非常に強いと私は感じます」

子どもへの道義的責任を果たしたい

 ディランはすでに26人の子どもに直接会った。

 最初の子どもと会ったのは、インスタグラムでメッセージをもらってから半年後、2021年3月のことだ。会う前にフレンドシップと信頼関係を築くべく、オンラインで何回も話し、お互いの気持ちが「直接会う」と一致した時点で会った。

「会う前は、母親や子どもの期待に応えられるかどうか、プレッシャーを感じすぎて精神的に消耗してしまいました」

 だが、実際に会うとその疲れは瞬間に吹き飛んだ。「パワフルでビューティフル」と表現するほど、感動的な瞬間だったからだ。すでに前から知っているような感覚になり、すぐにお互いを理解することができたと感じた。

 子どもに対して、道義的な責任を果たしたい――。彼は、父親としての責任を果たすため、仕事を辞める決断をする。

(ジャーナリスト・大野和基)