雅子さまの雨傘の布は、富士山麓で織られた
前原光榮商店の傘に用いられている生地は、甲斐織物の産地として知られた山梨県の富士山麓で製造されている。伝統的な機(はた)で、経糸(たていと)を一本一本手作業で織機にセットし、丹念に織られたものだ。
雅子さまの美しいベージュの傘は、シルクのような柔らかさと光沢をもつ布を用いているという。
そして、機能的にも高い傘だ。
屋外での公務では雨の中、傘をさしながら長い時間、説明を受けることもある。前原さんによれば、雅子さまの傘は骨組みにカーボンファイバーを用い、重量は450グラム程度と軽いものだという。
そして今回の明治神宮の参拝のように強い風にさらされても、カーボンの骨組みは曲がっても元に戻るしなやかさがある。一般的な傘は、8枚の布と骨を縫い合わせる8本骨がほとんどだが、雅子さまがお使いの傘は、頑丈でありながら優美な円形を描く16本骨。強度が高いため、強い風にも問題なかったという。
「傘の手元についているタッセルを、中指や薬指など1本の指に絡めて手元を持つと、驚くほど安定してお使いいただける構造になっています」(前原さん)
とはいえ、明治神宮の参拝でも拝礼を終えて本殿から出る瞬間に、雅子さまは女官から傘を受け取ると同時に歩を進めている。タッセルに指を巻く時間はなかなかなさそうだ。
陛下は皇太子時代からの雨傘を大切にお使い
お人柄がにじむのは、天皇陛下の黒い雨傘だ。
前原さんが振り返る。
「平成の時代に、皇太子だった陛下の雨傘の布を張り替える修理を承ったことがあります。英国製の古い傘でした。長い年月お使いの品でしたので、留学時代にお求めになったものかもしれませんね。明治神宮参拝でお使いの雨傘も、映像を拝見する限り、そのお品のように思います」
修理を重ねて大切に使う陛下の姿勢に、傘の作り手である前原さんは感銘を受けたと話す。