



誰でも自分なりのコダワリを持っていると思いますが、いわゆる「職人」と言われるヒトたちには、なんとまぁコダワリが強いことかと感じさせられることが多いです。
コダワリを語る職人は、一見わがままで、字面だけ見るとムカつくこともあります。「○○大臣賞をとったんじゃ」と自慢したり、「この角度はワシにしか出せんのじゃ」「この素材はじいさんの代からだから変えられんのじゃ」と、技に対するプライドや作るモノに対する自信を見せたり。初めはこんなに「自分が」「自分が」と言う人たちがいるんだと、素直に驚きました。
でも職人さんたちとつきあっていくと、その言葉の奥には、何とかこの技を受け継いでいきたいという思いや、先代に対する愛情とリスペクトの気持ちがあるのだと気づきます。強がっているようだけど、実はヒトの何倍もナイーブな種族なのかもしれません。
先日、山口に行ったときに、山口県民のソウルフード「昭ちゃんコロッケ」を製造販売しているタナカ社長の工場にお邪魔してきました。タナカ社長との出会いは1年ほど前でしょうか。山口での講演会に来てくださって、帰り際に「スズキさん、うちのコロッケ本当においしいから食べてみて下さいよ。そんでちょっとでもお店においてもらえればうれしいんです」と話してくださいました。知らなかったのですが、山口の人はみんな、コロッケといえば昭ちゃんコロッケなんですってね。私と同い年か少し上の方は、小学生のころから食べていると言っていました。
気になってしょうがなかったので、その夜、昭ちゃんコロッケが置いてある居酒屋に食べに行くと、一口でファンになってしまいました。タナカ社長に電話すると、「スズキさん、うちはドカンと売ってほしいなんて思ってないんです。東京にいる山口県人が、うちのコロッケがほしいと思った時にすぐ買える場所がほしいだけなんです。あたしは毎朝、うちのコロッケを食べてます。おいしくなかったら、味が60点とか70点だったら、絶対によそには出しません。小さいときにあたしが食べた、あのコロッケの味じゃないといやだから、『変わってないね、あの時の味だね』って言われるものしか出さないんです」とおっしゃいました。
このコダワリ、まさにコロッケ職人と呼ぶにふさわしい!
念願かなってうかがった工場は、タナカ社長の愛情が満ちあふれた場所でした。何よりも従業員さんが明るい。和気あいあいとした温かい雰囲気です。そしていました!毎朝社長が食べるコロッケを揚げる担当の人が。
「おーい、3個、あげてくれー」の一言で、朝の味チェックが始まりました。ついでに食べさせてもらった僕と、一緒に行ったデザイナーのマナカ。
「うん、今日も変わりない。昭ちゃんコロッケであたしは育ったんです。変えちゃいけないんです」というタナカ社長のセリフに、ほくほくのコロッケをほおばるマナカの瞳がうるんでいました。