山崎貴さんが東京の小さなスタジオで「映像」の世界に入って約40年。その視線はハリウッドをも見据えている。AERA 2024年4月22日号より。
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大きな二つの紙袋を携え、予定より10分ほど早くスタジオに入ってきた。「重いので」と渡された袋のなかでは、数週間前に手にしたばかりのオスカー像とゴールドのゴジラ像がまばゆく光る。
山崎貴が監督した「ゴジラ-1.0」は、第96回アカデミー賞(R)で日本映画として初めて視覚効果部門を受賞した。映画に携わる誰もが憧れる舞台に立ったが、その物腰は柔らかく、穏やかだ。
アカデミー賞期間中、山崎の傍らには、いつも小さなゴジラ像の姿があった。SNSでは「ゴジラはタカシの息子」というコメントが何度も飛び交った。
「プロデューサーから、『アイコンがあるといいから』と持たされていたんです。ゴジラは大スターだから、確かにみんなが話しかけてくれる。最後のほうはライナスの毛布みたいに、持っていないと不安になる存在になっていました」
ハリウッドには、巨大な予算をかけて作られたVFXが数多くある。視覚効果部門はオスカーのなかでも聖域中の聖域。制作費15億円以下、VFXパートを35人のスタッフで生み出した作品は挑戦権すらないと思っていた。
だが、その聖域を突破した。
「極東にある人数の少ないポンコツチームが頑張っているというストーリー自体が受けたんじゃないかと思っています。クオリティーの高いものを作った自信はありますが、他の候補作と比べると、VFXの規模感が全然違った。本気のハリウッドを見せつけられましたよ」
次にまたオスカーに挑戦できるかと問われれば、「全然自信がない」とも。だが、その口ぶりは決して悲観的ではない。
「可能性はゼロじゃないと証明できたことは大きかった。日本映画全体がワールドワイドな興行を目指す作品を作れるようになれればと思っています」
ゴジラが開いた扉に飛び込む準備はできている。(編集部・福井しほ)
※AERA 2024年4月22日号