秋篠宮ご夫妻、佳子さまも笑顔でお手振り(撮影/写真映像部・松永卓也)

参賀で「直に」を体感した

 私は参賀で「直に」を体感した。だから目がいったのだ。陛下は参賀で、まずはこう述べた。「冷たい雨が降る厳しい寒さの中、誕生日にこのように来ていただき、みなさんから祝っていただくことを誠にありがたく思います」。途中、能登半島地震へのお見舞いをはさみ、「みなさん一人一人にとって、穏やかな春となるよう祈っております。みなさんの健康と幸せを祈ります」と結んだ。最高気温が4度という東京の真ん中で、雨に降られながら聞いた「穏やかな春」に、心が温かくなった。

 実は陛下は昨年の誕生日にも、「皆さん一人一人にとって、穏やかな春となるよう願っています」とほぼ同じことを述べている。だが、東庭で聞いた陛下の「祈っております」は宮内庁HPで読む「願っています」とはまるで違った。「祈っている」対象に私も含まれる。そんなふうに感じたのだ。

皇室の存在意義と「国民との心の交流」

 皇室の存在意義が問われていると思う。SNS上で国民が皇室をバッシングすることが普通になっていて、象徴天皇制の“揺れ”のようなものを感じる。誕生日にあたっての会見では、陛下に「皇室へのバッシングと受け取れる一部の報道やインターネット上の書き込み」について記者が尋ねている。情報発信のあり方や誤った情報への対処の仕方を聞いたのだが、陛下はこう答えている。

<国民と心の交流を重ね、国民と皇室の信頼関係を築くに当たっては、皇室に関する情報を、国民の皆さんに、適切なタイミングで、分かりやすく発信していくことは大事なことであると考えています>

 「国民と心の交流を重ねる」は、とても良い表現だと思った。象徴天皇制とは何かということは、昭和天皇上皇さまも考えに考えただろう。陛下も当然のことだが同様で、その一端が「国民との心の交流」という言葉になったと感じた。心が交流するための手段は、さまざまある。その一つが「直に」だろう。

 一般参賀には記帳と合わせ、1万5900人が訪れたという。初回は9670人だったそうだ。9670分の1として「直に」はとても大切だと、実感した。

雨が降るなか、早朝から列をつくった参賀者たち(撮影/写真映像部・松永卓也)
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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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