TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は映画「劇場版 再会長江」について。

4月12日(金)全国順次公開
©2024『劇場版 再会長江』/ワノユメ

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 アジア最大の大河長江沿いに中国大陸を東から西へ6300キロ。「劇場版 再会長江」は上海、南京、武漢、重慶、雲南、チベット高原まで源流の最初の一滴を求めて旅をする。

 源流に近づくにつれ、映像のめくるめく美しさに息をのんだ。雲南省瀘沽(ろこ)湖(こ)は鏡のような湖面。標高2800メートルで空と近い。そこにたった一艘の手漕ぎ舟が浮かんでいる。見下ろしているはずなのに澄んだ青色が天地を逆転させ、悠々と空を飛ぶ舟を見上げる錯覚に陥った。そこは少数民族モソ人の暮らす「女の国」。母系社会で家庭でも職場でも女性が決定権を持つ。彼女たちの微笑みと母なる大地がシンクロし、観る者の心を豊かに包み込む。

 さらに西にはシャングリラ。小説『失われた地平線』に出てくる理想郷として知っていたが、住む人々を見るのは初めてだった。80円で羊と一緒に写真を撮らせる少女がかつていた。1組か2組の客を10時間かけてじっと待っていた。それが今は大きなホテルの経営者に。床暖房を備え、両親と祖母を養っている。少女だったツームーが旅人に抱きつく。「懐かしい!」。涙もろさは変わらない。

4月12日(金)全国順次公開
©2024『劇場版 再会長江』/ワノユメ
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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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