photo (c) 2023 House Claw Rights LLC; Claw Film LLC; British Broadcasting Corporation. All Rights Reserved.

「アイアンクロー=鉄の爪」の必殺技を持つプロレスラーのフリッツ・フォン・エリック(ホルト・マッキャラニー)は、息子のケビン(ザック・エフロン)、デビッド(ハリス・ディキンソン)ら4人全員をレスラーに育てようとするが──。史上最強ながら「呪われた一家」とされた実在する家族の物語「アイアンクロー」。脚本も務めたショーン・ダーキン監督に本作の見どころを聞いた。

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 私は幼少時代、大のプロレスファンでした。物静かだった私は感情のはけ口がなかったのですが、プロレスを観ているときだけは叫ぶことができたのです。フォン・エリック一家の活躍と一家に起こった悲劇はずっと私の頭のなかに残っていました。でもこの映画はプロレスファンではない方のほうが楽しめるのではと思っています。どの家族もそうであるように、この一家にも複雑な力学があり、兄弟愛がある。父親が示した物事のやり方からなかなか逃れられない子どもたちがいる。私はそこに心を動かされて彼らの物語を描こうと思いました。悲劇もあるけれど、そこには光も愛もあるのです。

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 父フリッツは息子たちに「強くあれ」と叩き込み、プロレスラーに育てます。そこには心理的な呪縛がありますが、以前「マーサ、あるいはマーシー・メイ」で描いたカルトのリーダーの支配とは違います。父親は自分の欲のために人を操っているわけではなく家族のために良いことをしていると信じている。そこにはアメリカ特有の極端に歪められた「男らしさ」が存在します。私はこのことを子どものころから考えていました。男として生まれてから「男子はこうあるべきだ」「こう振る舞うべきだ」と言われることに抵抗し続けてきたのです。世の男性が自分の息子をもっと優しさを持って育てることができれば、世界は違うものになるのではと思っているのです。実際、私も7歳の娘と2歳の息子にそう接しているつもりです。

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 兄弟のなかでケビンだけが生き残ったのは、妻パムの力が大きい。彼女によって彼は自分が育った環境とは別のやり方があることを知った。人との出会いによって、人は思い込んでいたものを変えることができる。その重要性も感じていただければと思います。

ショーン・ダーキン(監督・脚本)Sean Durkin/1981年、カナダ出身。「マーサ、あるいはマーシー・メイ」(2011年)で高く評価される。近作にリミテッドシリーズ「戦慄の絆」(23年)。4月5日から全国公開(photo (c) 2023 House Claw Rights LLC; Claw Film LLC; British Broadcasting Corporation. All Rights Reserved.)

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年4月8日号