『星を編む』凪良 ゆう 講談社
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 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2024」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、凪良ゆう(なぎら・ゆう)著『星を編む』です。
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 「本屋大賞2023」で大賞に輝いた『汝、星のごとく』。そこで明かされなかった物語をあますところなく描き出したのが、続編となる『星を編む』です。

 『汝、星のごとく』は、風光明媚な瀬戸内の島で出会った青埜 櫂(あおの・かい)と井上暁海(いのうえ・あきみ)の15年にわたる愛を描いた物語。多感な高校時代を経て、一時は心離れることがありながらも純愛をつらぬく櫂と暁海の姿に、涙した人は多いことと思います。

 そんな同書で存在感を放っていた人物が、ふたりの高校の化学教師・北原です。彼は島で唯一のシングルファーザーとして知られているものの、その背景はわからず謎の多い人物。北原先生の大切な人として「明日見菜々(あすみ・なな)」という女性が登場しますが、彼女との関係性については詳しく語られないままでした。それが『星を編む』の最初に収録された「春に翔ぶ」では、北原先生の過去が明かされ、明日見菜々との間に何があったのかが鮮明に描かれています。なぜ北原先生は淡々としている中にも深い情熱を秘めているのか、なぜ櫂や暁海に対して尽力してくれるのかが点と点が線でつながるように浮かび上がってきて、読者はより一層、北原先生の持つ魅力に惹かれることでしょう。

 そして、もうひとつのアナザーストーリーとして収録されているのが、タイトルにもなっている「星を編む」です。こちらは上京後に漫画原作者・作家となった櫂を担当した編集者、植木と二階堂のその後のお話。櫂の作品を後世に伝えるべく魂を燃やし、作家とともに星のように輝く物語を編み出し続けるふたりの姿にこれまた胸が熱くなります。

 『汝、星のごとく』に登場したまわりの人物たちにフォーカスすることで、物語がより深いものとして浮かび上がってくる『星を編む』。前作に感動した方には、ぜひとも読んでいただきたい続編となっています。もちろん、初めて手にとる人にとっても、魅力ある人物たちが織り成す人間ドラマとして面白く読めることでしょう。

 同書の最後に収録された「波を渡る」で描かれるのは、38歳になった暁海と52歳になった北原先生のその後。花火のようにきらめいた櫂との15年間より、凪のようにおだやかな北原先生との生活のほうがずっと長く続いていくこと、そしてそこに新たな愛の形を見いだせることは、若いころの暁海には想像もつかなかったに違いありません。人生とはわからないものですが、暁海や北原先生、その周りの人々が互いを大切に思いながら歳を重ねていく姿は、この世にいることの希望を読者に感じさせてくれることと思います。必死に生きていく中で、それぞれがそれぞれの幸せを見つけていくこと――『星を編む』はその大切さと尊さを教えてくれる作品です。

[文・鷺ノ宮やよい]