国境の街・北海道の根室を舞台に、水産加工会社社長の3人の娘のあらがえない人生を次女・珠生を軸に描く。長女・智鶴は政界入りを目指す御曹司と結婚し、三女・早苗は地元金融機関に勤める男を婿養子にして実家を継ぐことになり、珠生はヤクザの組長と一緒になる。三人三様それぞれの思惑と“これだけは譲れない”ものがぶつかりあい、弾けあう。まさに桜木版「極道の妻たち」だ。
国政選挙で初当選を果たす智鶴の夫・大旗。それを支えた珠生の夫・相羽。そこにはいつも、国境の海でかき集められた汚れた金が存在していた。戦後昭和期の時代のうねりの中、駆け上がっていく者たち、落ちていく者たちの“明暗”が残酷なほど冷静な筆致で描かれる。
女が主人公の物語であるが、その周辺にいる男たちがみな儚く、哀しさが際立っているのも、この物語の大きな魅力となっている。
故郷・北海道でひたむきに小説を書き続ける直木賞作家・桜木紫乃にしか描けない世界がまた一つ生まれた。
※週刊朝日 2015年10月30日号