「迷いがあったかと聞かれればほぼその場で『やりましょう』と答えていました(笑)。三陽商会とは古巣である三井物産時代からの付き合いです。業績不振をモニターしており改善策を自分なりにシミュレーションしたこともあった。自分の熱量は落ちていない、健康面の問題もない。これはお役に立てるかもしれないと」

 当初は副社長として着任したが前社長がわずか5カ月で退任するなどの急展開で20年5月に社長就任。現場に入って改めて感じた課題はほぼ予測どおりでゴールドウインとの共通点も多かった。

「商品開発のクリエイティビティは優れているし優秀な人材もそろっている。一方でそれらを収益につなげる構造が欠落していた点も同じ。僕が着任したとき、三陽商会のプロパー(定価販売)比率は50%を切っていたんです。半分以上がセールということ。『ラブレス』というセレクトショップの事業では品番数が5000もあった。わずかな売れ筋を作るために大量の無駄玉を仕込む構造になっていました」

 商品を詰め込むだけ詰め込んだような売り場があった。過剰供給を繰り返し売れ残りはセールで処分、そうして粗利率は低下するという悪循環。バーバリーの栄光時代を知るからこそ売上規模を落とせないジレンマを見た。そんな会社の郷愁をばっさばっさと切っていった。「ビジネスはリアリズムの世界」が持論だった。

「トップライン(売上高)を追わず利益を出せる体質に変えることが急務でした。僕の目から見て調達コストは甘すぎでしたし、販管費も多すぎた。リストラなどは前任の社長時代から始まっていましたが在庫管理は手つかずです。そもそも販売努力だけで在庫を減らすことは難しいんですね。まずは入り口を規制しようと。品番数を半分まで削る、仕入れを40%カットする施策を問答無用で行いました」

 売上目標は前年の65%ほどとなる380億円まで下げた。25年2月期までに同520億円を見込む再生プランだった。大江は着任後の2年で人件費やプロモーション費用など約100億円の販管費を削った。主戦場だった百貨店も不採算店を整理し250店舗ほどを撤退した。

失敗より成功体験から学ぶもののほうが大きい

東京都の四谷に本社を構える三陽商会(撮影/加瀬健太郎)

 大江の就任した年は新型コロナの年でもあった。改革の鉈を切る間に4度の緊急事態宣言が発令された。「再建プランに自信はあれどコロナは予想外です。業績回復のための構造改革とコロナのダメージコントロールを同時に実施するというイレギュラーな対応を迫られました」

 当初1年で完結する計画だった再生プランを2年計画に見直した。休業要請もいつまで続くかわからない、キャッシュばかりが減っていく状況とあって大江自身もきつかったはずだろう。

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コロナ禍の状況を逆手に取り……