「ただコロナは劇薬効果を伴っていたんですね。品番数を絞るのは現場からすると抵抗があって当たり前。ゴールドウインのときも『そんなことをしたらお客さんの選択肢が狭まってしまう』という声が上がりました。けれど、緊急事態宣言で商品を仕入れる以前に売り場が消滅してしまったわけですよ。会社を守るために改革するしかないという意識がかえって高まった気がするんです」

 品番を削ると逆に商品は回りだした。ラインアップを絞ることで1点1点にかけるエネルギーが増し商品の磨き上げが進んだのだ。大江は販売員にも声をかけていた。限られた商材を売り切ることこそがあなたたちのスキルだ、と。

「商品数で売上を立ててきた今まではいわば成り行きに過ぎないわけです。そこに販売努力はない。相当のプレッシャーをかけましたけど店頭表現のレベルはぐんと上がりましたね」

 ブランドの世界観が研ぎ澄まされたことで50%以下だったプロパー率は70%まで上がった。

「現場の雰囲気は明らかに変わりました。売上が立ったことによって社員の迷いが消えたというのか。人は失敗から学ぶといいますけど、本当は成功体験から学ぶことのほうがはるかに大きい。『失敗から学び同じ過ちを二度としない』というのはいいように思えてネガティブな学習効果に過ぎません。そこから新しいものは生まれないですからね。一方、成功体験を経ると『もっと成功したい』という欲が出てくる。成功を積み重ねプラスのエネルギーが生まれ、社員のモチベーションも上がる。良い循環に入ってきたと思います」

アッパーミドルは日本独特の市場

 23年度2月期の売上高は582億円を超えた。「25年2月期までに売上高550億円」を掲げていたが前倒しでの実現だ。『バーバリー』が終了した15年度以来7期ぶりの営業黒字も達成した。

「収益構造は以前よりバランスが取れていると思います。当時は『バーバリー』の一本足打法でしたが今は基幹ブランドが7つある。それぞれ70〜90億円くらいの売上規模ですから非常に強固なポートフォリオですね。7つの事業すべてをできるだけ早期に100億円体制にしたいと考えています」

 基幹ブランドとはバーバリーの日本オリジナルラインを前身に持つ『ブルーレーベル・クレストブリッジ』のほか自社ブランドである『エポカ』や『ポール・スチュアート』『マッキントッシュ フィロソフィー』など。いずれもラグジュアリー、ハイエンドの少し下に位置するアッパーミドルの市場だ。年収でいえば800万円~1500万円ほどの層で国内に900万人ほど存在するという。

「日本独特の市場とも言われていますね。ラグジュアリーとカジュアルの二極化ばかりが取り沙汰されていますが、じゃあほかはいらないかといえばそんなことにはならない。現にアッパーミドルは約9兆円のアパレル市場のなかで9%ほどを占めており広義でいえば1兆円近い。そのマーケットのトップになるのが目標です。われわれの商品はアッパーミドルのなかでも高価格帯です。コートを例に取ると同業他社の平均価格は7万〜8万円ですが三陽商会の売れ筋は12万〜13万円なんですね。目指すところはハイエンドと遜色のないクオリティー。昨今グローバルブランドが好調ですが為替の調整で値上げもすさまじい。このラインはむしろ拡大の余地があるのではないかと感じています」

 この3年間で主要チャネルだった百貨店の撤退が相次いだ。が、コロナ明けの百貨店は高級品市場をけん引する強い販路になっている。その優位性を鑑み再び出店を強化していくという。

暮らしとモノ班 for promotion
大人も夢中!2024年アニメで話題になった作品を原作マンガでチェック
次のページ
ビジネスパーソンに伝えたいこと