音楽家・坂本龍一さん/1952年、東京都生まれ。映画「母と暮せば」(山田洋次監督)の音楽担当。東北ユースオーケストラの代表理事・監督も務める(撮影/写真部・松永卓也)
音楽家・坂本龍一さん/1952年、東京都生まれ。映画「母と暮せば」(山田洋次監督)の音楽担当。東北ユースオーケストラの代表理事・監督も務める(撮影/写真部・松永卓也)

■ネットを公共の場に

坂本:何十年も日本に政治運動がなかったのは、みんなが集まって発言する場所がないことも大きかったと思う。SEALDsは国会前に人を集めたけれど、そもそも国会前は道路だから集まるには不便だし、理想的な場所ではない。大きな公園は規制が厳しくて、市民が自由に使える感じではない。

高橋:そう、日本は人々がパブリックなことを話し合うための場所をなくすことに、見事に成功したんですね。本拠地がないと、運動は続かないですから。結局どうしたか。SEALDsはネットを公共の場所にした。

坂本:LINEとかね。彼らは非常にうまくSNSを利用している。すごいね。

高橋:ええ。今、僕たちは民主主義を自分たちが手に取れるものにしなくちゃいけない時期に来ているのかもしれません。僕は、朝日新聞で論壇時評を書いていることもあり、民主主義について考えることが多くなりました。そして、民主主義とは何かを考えると、民主主義を再定義しなければいけないんじゃないかと思うようになってきたんです。

坂本:日本では従来、民主主義って、自分たちがつくったり、考えたりするものじゃなかったけど、ようやく考える時代になったのかな。

■パッと日常に戻る

高橋:そう思うんですよ。ギリシャの古代アテナイ(※7)では市民6千人ぐらいが集まって、自分たちの社会や政治について話し合って決めていました。それが初めての民主主義と言われていますね。祝島のデモがまさにそれでした。週に1回、島民が集まって、政治的な主張を30分する。それが終わると、パッと日常に戻る。パートタイムの政治参加。それが、古代アテナイ由来の「民主主義」なんですね。実際、原発はつくられていません。いま、民主主義の誕生にまで立ち返って、その本質を考えてみるべきときなのかもしれませんね。

坂本:代議制民主主義(※8)というものに、もう一度疑問の目を向けるべきときなんだと思うんです。日本の政治システムでは、直接首相を選べない。アメリカにしても、大統領選はすごく複雑なシステムで、直接選べるわけではない。権力側が、システムを複雑化させ、本来の主権者たる国民から、直接政治(※9)を遠ざけようとする傾向がある。直接政治を取り戻す、手にすることはとても大事なことだなあ。

高橋:デモクラシーとは、すごく簡単に言うと、主権を他人に渡さないということです。逆に言うと、主権が自分の手の中にあるということは大きな責任を伴うことだから、何かの折には公的なことに参加しなければいけない。それが今の日本では主権を他人に渡しちゃっている状態です。選挙のときだけ主権者になっても、安倍政権に対しても、強行採決にしても、僕たちは止めることすらできない。

坂本:アメリカにしても、民主主義は実現してない。民主主義を輸出するんだと声高に叫んで、イラク戦争を始めたり、世界中で戦争をしていますけど、アメリカ人の多くは、これは全然民主主義じゃないと思っている。

高橋:本来、「民主主義」は、その社会で生きる僕たちを活性化してくれるシステムであり、概念であり、言葉のはずと思うんです。

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