この実験についてはすでに知っているひとも多いだろうからネタバレすると、白のシャツと黒のシャツの6人の男女が、それぞれのチームに分かれてバスケットボールをパスする動画を見せられ、白いシャツのチームが何回パスしたかを数えるよう指示される(2個のボールが行きかうのでかなりの集中力がいる)。

 するとこのとき、画面の右から着ぐるみのゴリラがゆっくりと登場し、中央で胸を叩いたあと、画面左へと歩き去っていく。その間、9秒間も画面にゴリラがいたにもかかわらず、多くの被験者はそれに気づかない(少なくとも半数はゴリラが見えなかった)。

 ユーチューブで“Selective Attention Test” と検索すると動画が見つかるので、知り合いに試してもらうといい。見事に引っかかって、ちょっとした自慢ができるだろう。

 この現象は「非注意性盲目(Inattentional Blindness)」と呼ばれている。脳にとって注意はきわめて希少な資源なので、あること(パスの本数を数える)に注意を集中させると、それ以外のことが目に入らなくなってしまい、文字どおり「盲目(ブラインドネス)」になってしまうのだ。

自分すら信じられなくなる

 脳が簡単にだまされることは、さまざまな実験で確認されている。男性の被験者に、2人の女性の写真のどちらが魅力的かを答えさせたあとで、手品のトリックで選ばなかったほうの写真を見せ、「あなたはいまこのひとを魅力的だと答えましたが、その理由を教えてください」と聞くと、大半がすり替えに気づかず、なぜその女性に惹かれたのかを滔々と説明する。

 この実験は、主観がかなりあいまいで、好き嫌いはちょっとしたことで変わることと、脳は一貫性にこだわるので、「このひとを魅力的だと答えた」と言われると、その「事実」に合わせた説明を巧妙に(そして無意識のうちに)でっちあげることを示している。

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