エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復してきた小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 いつ咲くのか、と気になる時期になりました。楽しみですね、桜の開花。満開の風景は季節の大きな節目として、見る人の胸にさまざまな感慨を呼び起こします。

 不思議なもので「あと何回豆まきができるかなあ」とは思わないのに、お花見は毎度ちょっとそんな切なさを伴っています。あと何回、こうして花霞を眺めることができるのかしら。開いた花が瑞々しいままに散っていく様は、美しくも儚(はかな)いものです。昨日まで凛と咲いていた花弁が、今日は風に吹かれて水面に浮かぶ。桜吹雪の幻想的なこと。

桜の季節、お花見遍歴を振り返ってみませんか?(写真:gettyimages)

 桜は美しいまま散る姿がいいのだ、人もかくあれという人もいるけれど、枯れゆく様にも風情を見いだすのが日本の美です。春の花でも木蓮なんかは艶のあるふくよかな純白の花が次第に茶色く萎んでいく様を見せてくれます。子どもの頃に暮らした実家には大きな木蓮の木があって、花弁がついにハラリと地面に落ちると、拾ってじっと眺めたものでした。まだ寒い頃にまず庭の白梅が咲いて、水仙や木蓮が咲いて、花壇のチューリップが満開になる頃には日差しが暖かくなっていたっけ。

 お花見遍歴を振り返ると、両親と行ったのは都立小金井公園。中学に上がってからは新宿にある母校の桜並木。なんとなく寂しい気持ちで一人歩いた下校時間の並木道は、満開の桜が鈴のように鳴っているような、不思議な気配に満ちていました。大学に入ると夜の上野公園で、お花よりもおしゃべりが目的に。会社に入ると職場近くの土手で場所取りをして、先輩たちとビールを飲みました。子どもが小さかった時は近所の公園でお弁当を食べ、今は道端の桜に一人でスマホをかざし、家族に写真を送っています。来年は夫婦で見られるかな。

 今年の桜は、どこで誰と眺めますか。開花から5〜10日間が見頃。どうかいい思い出になりますように!

AERA 2024年4月1日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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