そんな和歌山の話とはだいぶ違うのだけど……。

 飲んでる時は気が大きくなるものだ。

 今年の一月に新宿の居酒屋で仕事仲間数名で飲んでると「失礼しまーす」と、チアリーダーの衣装を着た若い女子がいきなり飛び込んできた。普通の居酒屋。「よろしければシジミいかがですかー!?」

 昔ボディコン姿のお姉さんがよくタバコを売りにきたが、今は全館禁煙の飲み屋も多いからタバコじゃ商売にならないのかもしれない。

 「シジミのエキスがギュッとつまったタブレットなんですが、身体にいいですよ! いかがですか?」とチアリーダー。

「くれるの?」

「いや、あげません。売ってます。一袋500円!」

「高っ! 何粒入ってるの?」

「二粒」

「少なっ! 一粒250円もするのか!?」

「はい、高いです。私もそう思います」

 素直に認めた。普通「そんなこと言わないでくださいよー!」とか「お値段分は効き目がありますからー!」とか言いそうなものだけど。

「だからまだ今日は一つも売れてません。お茶ひいてます」

 ここで使うのは合ってるかどうか微妙だが、なかなか使わない言葉だ。「お茶をひく」とはお客がつかず閑古鳥が鳴いているの意。

「なんでそんな言葉知ってるの?」

「先輩に教わりました」

 すぐに志村けんと柄本明の芸者コントが頭をよぎった。アレ、大好き。

「ところで、そのカッコ寒くないの?」と聞いてみた。

次のページ 酔っ払いはこの手の話に弱い