
風太(写真)は3年前、動物保護施設からわが家にやって来た。15歳の雑種のおじいさん犬である。
最初の名前はゴン。飼い主の入院で行き場をなくし、12歳で施設に引き取られたとき、新しい人生をとファニーと改名されたそうだ。
うちにきたとき、どう見ても「ファニー」というご面相ではなかったので、「ふ」だけとって風太とした。
「とっても飼いやすい子ですよ」という施設の人の言葉通り、わがままを言わないおとなしい犬である。ごはんが遅くなっても、いつまでもじっと待っている。
あまりにも鳴かないので、声帯でも悪いのかと思っていたら、家の前を通りかかった犬に、とても男前の凛々しい声で「ワン!」と鳴いたので驚いた。
ボールに興味を示さない。人の顔をなめない。もの静かな犬である。好きな人に愛情を示すときは、猫のようにスリスリしてひっついてくる。本来は甘えん坊だ。
散歩は大好きで、これだけは我慢できない。だから、誰もいない大雨の公園をたった一組、散歩することにもなる。道で会った犬友には「ふうちゃんは偉いねぇー」と褒められるが、偉いのは、ぼとぼと雫を垂らしている私のほうである。
風太に聞きたいことはいっぱいある。「ねえ、どんな半生を歩んできたの? どんな家族だった? 全部わかっているから、お利口さんにしているの?」
もし自分の立場をわきまえておとなしいのなら、こんないじらしいことはない。今も前の飼い主さんを忘れられずにいるのだろうか──これが一番気になるところだ。今の風太はわが家の大切な一員。余生を幸せに全うさせてあげたい。そのときが来たら、「君の魂は、元の家とわが家、どちらでも好きなほうに帰っていいのだよ」と、送り出してやるつもりだ。
(矢追克恵さん 大阪府/63歳/無職)
【原稿募集中!】
「犬ばか猫ばかペットばか」では、みなさまからの原稿をお待ちしております。
原稿は800文字程度で、ペットのお写真を添付のうえ、下記メールアドレスまでご送付下さい。
必ず名前、住所、年齢、職業、電話番号のご記入をお願い致します。
尚、掲載は本コーナーと「週刊朝日」の誌面となります。謝礼は6千円。
mypet@asahi.com
※著作権は本社に帰属します