阿古真理(あこ・まり)/くらし文化研究所主宰。作家・生活史研究家。食を中心に暮らし全般および女性の生き方の歴史と今、写真をテーマに、ウェブメディア、書籍その他でルポや論考、エッセイを執筆。講演、テレビ・ラジオへの出演多数。2023年、『家事は大変って気づきましたか?』(亜紀書房)などの執筆活動で第7回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)を受賞。ほかに著書多数 (photo 平岡 明博)

 同じように、キャニスター式の掃除機を物入れの奥に入れていたら「今から掃除をするぞ」と気合が必要になりますが、スティックタイプの掃除機を見えるところに立てておけば、ゴミを見つけた時にパッと出してパッと掃除できます。家事動線を可能な限り楽にすることも大事なポイントですよね。

 ――確かに。心理的負担に影響しますよね。

 我が家は、洗面台と洗濯機の間にすき間が空いているんですけど、キャスター付きのボックスを組み立ててそこに置いています。掃除のときは、ボックスごとガラガラ動かします。間違いなくホコリが溜まるデッドスペースに置く家具は、キャスターつきが便利です。

 ――そういう便利なものはどんどん活用するということですね。

 どうしても、自分が育った環境が家事の基準になるんですけど、世の中は変化しています。学校で習う家庭科も、紹介されている技術が古いのではないかという指摘がありますよね。「びっくり水」という調理用語がありますが、いまの方はどれくらいご存知でしょうか。「びっくり水」は麺類を茹でている時などに、お湯が沸騰してワーッと泡が出てきた時に水を入れてその泡をしずめるためのものですが、料理家の樋口直哉さんから、これはかまどの時代の技法だと聞きました。

 かまどは薪で火を起こしているので、火加減はすぐには変えられない。だから水を入れるんですが、いまはガスの時代ですから、ガスの火を小さくすればいいんですよ。シニアの方々が多い場でこの話をしたら、一生懸命メモを取っていらっしゃいました。そこまで極端でなくても、知識が実は古いままだということはあると思います。

 ――私も阿古さんの本で読ませていただいて知りました。「びっくり水」は味には関係ないんですね。

 そうなんです。つまり、みなさんの親御さんだって家事のプロじゃないし、時代に合わせてアップデートしているとも限りません。おばあさんやお母さんのやり方が必ずしも正しいわけじゃない。縛られなくていいんです。自分に合うスタイルを見つけていただくほうが、心の健康を保てるし、日々の生活も豊かになると思いますよ。

(構成 生活・文化編集部 永井優希)