モンゴルの夏の祭り「ナーダム」。馬のマラソンレースが行われる。騎手は少年少女たちで、騎馬民族の伝統を感じさせる(ウランバートル郊外)(撮影/写真映像部・小林修)
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 作家・司馬遼太郎さんをしのんで開かれる「菜の花忌シンポジウム」。今年は『街道をゆく』がテーマ。人口知能やSNSで簡単に発信ができる時代に、私たちが見失っているものとは。AERA 2024年3月18日号より。

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『竜馬がゆく』『坂の上の雲』などの歴史小説で知られる作家の司馬遼太郎さん(1923~96)をしのぶ「菜の花忌シンポジウム」が、命日の2月12日、都内で開かれた。今回のテーマは「『街道をゆく』──過去から未来へ」。「週刊朝日」で71年に始まった連載「街道をゆく」は司馬さんが亡くなる96年まで25年にわたり続き、国内は北海道から沖縄まで、そしてアイルランド、オランダ、モンゴル、台湾などの海外にも及んだ。

司会・古屋和雄:司馬さんに「電車と夢想」というエッセイがあります。人はたいてい電車に乗るべく待っている。子どもが就職したら「軌道に乗りましたね」という、あの電車。最近は、その軌道に乗らない人が増えていて、そういう人によって新展開をみせるかもしれないというのが私の夢想だとお書きになっている。

国際日本文化 研究センター教授 磯田道史さん/1970年、岡山県生まれ。著書に『武士の家計簿』『天災から日本史を読みなおす』『「司馬遼太郎」で学ぶ日本史』など(撮影/写真映像部・小林修)

磯田道史:その軌道の発想は近代社会の産物。前近代は身分、近代は就職で個人は居場所を得た。でも、もう近代じゃない。就職は固定の居場所じゃなく、むしろ不安定の開始となる時代です。

岸本葉子:軌道は、経済性、効率性を考えるなら最短距離で引くのが、いちばん理にかなっている。だけどその経済性、効率性というのも、そのときのものでしかないということですね。

古屋:「濃尾参州記」(第43巻)が未完のままで司馬さんは旅立たれたわけですが、司馬さんに「ここに行ってほしかった」というところはありますか。

今村翔吾:僕、京都府の木津川市というところの出身なんですけど、微妙にかすっている。「うちの地域にきてほしかった」という方って多いと思うんですよね。

作家 今村翔吾さん/1984年、京都府生まれ。2022年、『塞王の楯』で直木賞受賞、「ホンミライ」理事長に就任。著書に『戦国武将伝』(東日本編・西日本編)など(撮影/写真映像部・小林修)

磯田:私の故郷ですが、岡山に楯築墳丘墓(たてつきふんきゅうぼ)があります。「芸備の道」(第21巻)で、ちょっと、かするんですけど。卑弥呼の塚の可能性が高いとされる箸墓(はしはか)古墳(奈良県)の葬り方が、この楯築墳丘墓の影響を強く受けていると判明してきました。最新の発掘成果から、もう一度、古い日本の核を書いてくれたらなあと。

自分自身の「街道」を

古屋:『街道をゆく』を将来の人にどんなふうに読んでもらいたいかを、改めてうかがいます。

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