エッセイスト 岸本葉子さん/1961年、神奈川県生まれ。「週刊 街道をゆく」でモンゴル、ポルトガルなどの「リレー紀行」を担当。著書に『毎日の暮らしが深くなる季語と俳句』など(撮影/写真映像部・小林修)

今村:僕たちは、見失ってるものがあると思うんですよね。耳を傾けるよりも発信しやすくなり過ぎたことによって、国民全員、街道を歩いてるんですよ、いま。本物を知る前にまず短い街道を歩いて、まだ練れていない言葉で発信している人たちがあちこちにいる。ここらで一回、本物に触れるという意味で読んでほしい。「この本は小学生には早い」とかいうのは僕はよくないと思っていて、極端な話、幼稚園児でも読める子は読める。大人は、子どもをなめずに紹介してもらえたらなと思います。

岸本:まず読んでほしい。そして、読んだうえで歩いてほしい。そのときにはスマホを持たないでほしい。私も取材に行って、なにも残ってなかったりするんですね。遺跡も神社もお寺も。でも、地形って必ず残ってるので、ここは山があって、海がこういう角度にある。海が近いと風の匂いが違う。起伏と距離感と風の匂いを感じると得られるものがあります。でも、スマホで写真を撮って、そこに「こんな社がありました」と一文をつけると、もうわかったような気になってしまう。読んだうえで、その知識をいっぺん自分のなかに伏せて、感じてほしい。

磯田:先日、国土交通事務次官だった人と、防災に関して道路の話をしたんです。じつは日本列島は、こんなに小さな島なのに、アメリカやロシアに匹敵する道路延長があって、人類がもっとも歩けるようにした地面だというんですよ。「万巻の書を読み、万里の道を行く」という言葉が僕は大好きで、やっぱりこの島に生を受けた以上、行かない手はない。「本を読みながら、答え合わせとしてのあなた自身の『街道をゆく』を、リアルな旅でつくってください」と言いたいですね。

文化外国語 専門学校校長、元NHKアナウンサー 古屋和雄さん/1949年、山梨県生まれ。NHK「街道をゆく」新シリーズの朗読を担当。96年3月「司馬遼太郎さんを送る会」の進行役を務めた(撮影/写真映像部・小林修)

(構成/フリーライター・浅井聡)

AERA 2024年3月18日号より抜粋