今村:僕たちは、見失ってるものがあると思うんですよね。耳を傾けるよりも発信しやすくなり過ぎたことによって、国民全員、街道を歩いてるんですよ、いま。本物を知る前にまず短い街道を歩いて、まだ練れていない言葉で発信している人たちがあちこちにいる。ここらで一回、本物に触れるという意味で読んでほしい。「この本は小学生には早い」とかいうのは僕はよくないと思っていて、極端な話、幼稚園児でも読める子は読める。大人は、子どもをなめずに紹介してもらえたらなと思います。
岸本:まず読んでほしい。そして、読んだうえで歩いてほしい。そのときにはスマホを持たないでほしい。私も取材に行って、なにも残ってなかったりするんですね。遺跡も神社もお寺も。でも、地形って必ず残ってるので、ここは山があって、海がこういう角度にある。海が近いと風の匂いが違う。起伏と距離感と風の匂いを感じると得られるものがあります。でも、スマホで写真を撮って、そこに「こんな社がありました」と一文をつけると、もうわかったような気になってしまう。読んだうえで、その知識をいっぺん自分のなかに伏せて、感じてほしい。
磯田:先日、国土交通事務次官だった人と、防災に関して道路の話をしたんです。じつは日本列島は、こんなに小さな島なのに、アメリカやロシアに匹敵する道路延長があって、人類がもっとも歩けるようにした地面だというんですよ。「万巻の書を読み、万里の道を行く」という言葉が僕は大好きで、やっぱりこの島に生を受けた以上、行かない手はない。「本を読みながら、答え合わせとしてのあなた自身の『街道をゆく』を、リアルな旅でつくってください」と言いたいですね。
(構成/フリーライター・浅井聡)
※AERA 2024年3月18日号より抜粋