「ありがとうございます」
歌うようなきれいな声に、購入客は笑顔になった。
源田晃一さんのプリン店には看板猫がいる。名前はミクちゃん、アルバイト猫だ。鈴の鳴るような声で案内し、電卓を器用に操り、会計もしてくれる。
おいしい、かわいい、保護猫の助けにもなるらしい――。プリンとミクちゃんは評判を呼び、出店すれば行列ができる。
源田さんは、もとは和食の料理人だった。2016年、ラーメン屋に勤務していたが、「自分の店を持ちたい」と創作料理店をオープン。そのコースの締めにデザートとして出していたのが、プリンだ。
日本料理が専門だから、プリンは初挑戦。茶碗蒸しの要領でだしを牛乳に、みりんを砂糖に置き換えてつくったら、やさしい味わいと評判になった。
「百貨店の催事にお声がけいただいて、出店することにしたんです」
そんな機会が増え、20年、プリン一本に絞った。
地元は松山。司馬遼太郎の「坂の上の雲」に登場する秋山兄弟ゆかりの地だからと店名に「坂の上」をもらい、思い入れ深い「猫」を組み合わせた。
「猫が好きで、30歳の頃からティアラという猫と一緒に暮らしてきました。猫は絶対に名前に入れようと思っていたんです」
ティアラはなんと現在24歳。心の優しいパステル三毛だ。源田さんはティアラにくわえ、チャオ(8)、ベル(8)、マナ(6)、ふう(5)の5にゃんと暮らし、猫をこよなく愛している。
ミクちゃんの毛色はティアラそのままの色合いで、アルバイト猫として20年2月にデビューした。
ミクちゃんはにゃあと鳴かない。
「もしも猫が魔法にかけられて人間になったら、きっとにゃあとは言わない。自分は猫だと気づかないままじゃないかな」(源田さん)
源田さんとミクちゃんは、プリンを携え全国をまわる。
「今は全国に皆さんに会いに行けるのがうれしい。いつか全国から僕たちの店に皆さんが来てくれるような、保護猫カフェを開けたらと思います」
※「NyAERA2024」から抜粋