9月の国連総会のとき、安倍首相とプーチン大統領が会談するかもしれない、というニュースが流れた。北方領土問題で進展があるだろうか。あわてて『池上彰のそこが知りたい!ロシア』を読んだ。
いつもながら、池上彰の時事解説はじつにわかりやすい。ロシアという国の成り立ちから、北方領土問題の経緯、ロシアが置かれている国際的環境などについて、手際よく整理して語る。中学3年生でも十分理解できる。
北方領土には、第2次世界大戦で日本が降伏した後に旧ソ連が不当に占領した、という印象がある。だが、ことはそう単純ではない。日本で終戦(敗戦)といえば8月15日。しかしミズーリ号の甲板で降伏調印したのは9月2日で、だから中国の抗日戦争勝利記念日は翌日の9月3日だ。旧ソ連・ロシアからすると北方領土は戦争で取った正当なもの。しかも日本政府は1950年の国会答弁で、国後・択捉はサンフランシスコ講和条約で放棄した千島列島に含まれるといってしまう(56年に取り消し)。その後も2島先行返還論と4島一括返還論で日本側の方針は揺れた。
ロシアは北方領土問題を解決したがっている、というのが池上彰の見方だ。ロシアは天然ガスをはじめ資源が豊かな国だ。それを世界に売りたいと思っている。しかしウクライナ問題などがあって、西側諸国とはピリピリした関係になっている。日本との関係が改善できれば、資源ビジネスもうまくいくだろう、というわけだ。
しかも安倍政権の今だからこそチャンス、と池上彰はいう。プーチンはスターリンの再来かと思うような独裁者だ。一方の安倍は右派が支持基盤。リベラルな首相が「とりあえず2島返還で」なんていったら後ろから弾が飛ぶが、安倍なら文句も抑えられるだろうというのである。まさに毒をもって毒を制すアイデアだ。
ロシアは隣国、ロシア人は隣人である。それなのに日本人はロシアについてあまりにも知らない。
※週刊朝日 2015年10月2日号