それにしても、間違いなく現役最強漫才師のうちの1組であるプラス・マイナスがこういう形で解散してしまったのは本当に残念だ。岩橋と兼光は、それぞれが個々人でも高い能力を持つ芸人でありながら、コンビとしての漫才の腕も超一流だった。

 彼らはデビューしてすぐに才能を認められ、TBSの深夜コント番組『10カラット』のレギュラーに抜擢された。オリエンタルラジオやハリセンボンも横並びでこの番組に出演していた。しかし、プラス・マイナスはここではブレークのきっかけをつかめなかった。

M-1は惜しくも

 その後も彼らは漫才の腕を磨き続けた。そして、ようやく訪れたチャンスが2018年の『M-1グランプリ』だった。芸歴制限でラストイヤーを迎えていた彼らは、優勝候補の呼び声も高かったのだが、惜しくも準決勝で破れてしまった。

 敗者復活戦でも見事な漫才を見せて爆笑を巻き起こした。ほぼ完璧に近い出来だったのだが、惜しくもミキに敗れて決勝進出のチャンスを逃してしまった。

「たられば」を言っても仕方がないが、このときにプラス・マイナスが決勝に進んでいたら、決勝で活躍できていた可能性は十分あるし、場合によっては優勝していたかもしれない。仮にそうなっていたら、ここでコンビを解散することもなかったのではないか。

 2023年には『M-1グランプリ』に出られなくなった結成16年以上の芸人だけのお笑いコンテスト『THE SECOND ~漫才トーナメント~』も始まった。このときにも、プラス・マイナスは間違いなく優勝候補の一角だろうと個人的には思っていたのだが、惜しくも予選で敗れてしまい、決勝(グランプリファイナル)に駒を進めることはできなかった。

 ものまねも得意で芸達者な兼光の切れのあるボケと、安定感抜群の岩橋のツッコミから成るプラス・マイナスの漫才は、すでに名人芸と言って良いレベルにあった。何も考えず、ただ見て聞いているだけで楽しめる、理想的な漫才の形だった。

 世の中はさまざまな理不尽に満ちている。しかし、プラス・マイナスほどのコンビがこんな形で解散するという理不尽があっていいものなのか。最強の芸人同士が組んだ最強のコンビの幕切れは、拍子抜けするほどあっけないものだった。どうにもならないことは承知の上で、まだどうにかならないかとも思っている。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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