鉄道の旅でも人気の桜だが、春の景色はそれだけではない。北国の春はゆっくり訪れるのも魅力の一つ。AERA 2023年4月3日号では、識者と筆者が選んだ「いま乗りたい全国の鉄道11選(後編)」の記事を紹介する。
* * *
春の鉄道は花だけではない。
「車窓から見えるのは、ライトグリーンの新緑。すごく柔らかそうで、サラダにして食べたいくらいです」
と楽しそうに話すのは、鉄道旅を愛するフォトライター・矢野直美さん。「元祖・鉄子」の愛称でも呼ばれるほど、鉄道旅をこよなく愛する。
そんな矢野さんがまずおススメするのが、北の大地を走る「JR釧網(せんもう)線」だ。東釧路駅(北海道釧路市)から網走駅(同網走市)まで延びる全長約166キロ。北海道らしい雄大な景色を目いっぱい楽しめる路線で、なかでも春を感じることができるのが日本最大の湿原、釧路湿原の車窓からの眺めだという。
■「北国の春はゆっくり」
東釧路を出た列車は、やがて釧路湿原の中にどんどん入っていく。初めて釧網線に乗ったとき、列車はどこまで入っていくのかドキドキしたそうだ。
一面に広がる湿原の緑は、生い茂ったグリーンではなく柔らかな色。エゾシカや、運がよければタンチョウが飛び交う美しい姿も見ることができるという。
北国の春は遅い。5月でも、天気がよければ遠くに雌阿寒岳、雄阿寒岳など雪をいただいた山が見える。矢野さんはこう話す。
「北国の春って、ゆっくり訪れるんだなと実感できます」
次に矢野さんが挙げるのは岩手県の沿岸部を走る「三陸鉄道リアス線」だ。2011年3月の東日本大震災による津波で、駅舎や線路が崩壊し不通が続いた。だが、19年3月にJR山田線の一部を引き継ぎ、盛(さかり)(岩手県大船渡市)から久慈(同久慈市)まで163キロを走る日本一長い第三セクター鉄道として新たなスタートを切った。
「春は海からやってくると言いますが、本当に海で春を感じることができる鉄道です」
矢野さんの言葉どおり、魅力は何といっても海の景色。列車はリアス式海岸に沿って走る。柔らかな日差しを浴びながら青い海を見ると、春の訪れを感じるという。
沿線は海の幸の宝庫だ。とりわけ終着駅の久慈駅内で販売している「うに弁当」は、
「絶品です」