国民的アイドル、SMAPのリーダーに迫った一冊である。「歌って踊れる」にとどまらない多面性を発揮する彼だけに、ヤンキー、演技、笑い、司会など幅広いテーマから考察する。チャップリンにあこがれ、読書を好み、「バラエティは演じている」と語る姿は我々が知る「中居君」の印象を覆す。
 一般的に「中居正広」を形成する要素には「アイドル冬の時代」にデビューを迎えた時代背景が挙げられる。歌番組が黄金期を終え、他分野に活路を見いださざるを得なかったことが、結果的に多様性を育んだ側面は大きいだろう。
 とはいえ、著者は彼の凄さを、そうした変化への柔軟性だと指摘する。従来のアイドル像を今でも自ら積極的に崩して、43歳になっても探求をやめないトップアイドルの息づかいが全編を通じて伝わる。
 社会学者としてアイドル論を展開してきた著者だが、本書は学者ではなく一ファンとしての立場から描いたと言っても過言ではない。中居正広は従来のアイドル論ではもはや語ることができない存在なのかもしれない。

週刊朝日 2015年9月25日号