ソフトウェアエンジニア 重田朝子さん/第2子の産休・育休中に再学習し800点達成。出産後は体力的にも負担があったが、SNSなどの気晴らしを完全にやめて英語に没頭したという(写真:重田さん提供)※画像は一部加工しています

 転職や昇進、昇格で英語スキルが求められるケースは少なくない。小学生から英語に触れる若手との差に焦るあなたに、30歳を過ぎてからTOEICスコアとキャリアを大幅にアップさせた人が勉強法を明かす。AERA 2024年3月4日号より。

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 TOEICを学習したことによって、英語だけにとどまらない成果を感じる人がいる。ソフトウェアエンジニアの重田朝子さんは19~20年、産休・育休中に学習に取り組み、スコアを595点から800点にアップさせた。もともと英語は大の苦手で、新入社員のころ会社で受験した際は385点だった。

「あてずっぽうでマークして、『ロトシックス』と呼んでいたくらい。ただ、英語で交渉して難局を乗り切る先輩がかっこよくて憧れたんです。せめて自社製品を英語でプレゼンしたいと思い、オンライン英会話に参加するなどして600点程度はとれるようになりました」

 その後スコアは停滞したが、第2子妊娠を機に再学習を決意する。目標としたのは800点。エンジニア職で800点を持つ人は少なく、強いアピールポイントになること、復職後よりは学習時間を取りやすい産休・育休中が「最後のチャンス」と思ったことが理由だった。

 産前は1日5時間を目安に集中して取り組み、産後3カ月は体力回復と育児に専念、その後は1日1時間を目標とした。勉強に使ったのがリクルートのアプリ「スタディサプリ」だ。

「育児をしながらの学習は想像以上に大変でした。気晴らしのSNSやネットサーフィンを完全にやめ、隙間時間を見つけては少しでも英語に触れるようにしました。スマホですべて完結するので、赤ちゃんを抱っこしながら例文の音声を声に出して真似するシャドーイングを繰り返すなど少しずつ勉強しました」

 シャドーイングを続けるうち、「聴こえなかった」音が理解できるようになってきたという。出産後9カ月目に受けたTOEICで755点にアップし、その3カ月後には800点に。産後は隙間時間の勉強が中心だったが、コツコツ積み重ねたことでトータルの学習時間は430時間にもなったという。

努力が同僚の信頼に

 復職後、海外とのやり取りでもかなり英語が聴き取れるようになったと実感する。そして、思わぬ副次的な効果もあった。

「800点を取ったことで、周りが『目標に向かって取り組める人』だと信頼してくれたのだと思います。英語とは全く関係ない部分でも、上司や先輩が自分の意見をこれまで以上に尊重してくれるようになりました」

 英語は苦手──。記者自身も含め、学生時代のコンプレックスそのままに社会人生活を送る人は数多い。ただ、学習のスタートに遅すぎることはない。(編集部・川口穣)

AERA 2024年3月4日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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