そんななか、特機開発グループの先輩が「パソコンが普及すれば、つないで使うプリンターも売れる」と、電子タイプライターをもとにしたプリンターを発案した。

 でも、BICは自社の販路に自信がなく、特機開発グループが自ら売ることにして、独身で身軽な小池さんをグループに戻し、渡米させることにした。英語は得意でなく、プリンターの知識もなかったが、「事業を仕切って、鶏口になる好機だ」と思い、ロス勤務を受け入れた。

売り上げの急増で本社の反対押し切り巨大な倉庫を建設

 売上高が急成長すると、新製品や部品、修理する製品を置く倉庫が満杯になる。98年12月に約40億円を投じて大倉庫をつくった。本社の面々が「倉庫業でも始める気か」と反対したほどの広さだったが、「また足りなくなる」と主張する。『源流』からの「やると決めたら、やり抜く」の気構えは、米国へも流れていた。5年で予想通りに満杯となり、BICの社長だった2004年に拡張した。

 05年3月に帰国し、4月に常務執行役員になり、2年後には社長に就任。その後の講演で宣言し、約束した。

「最後まであきらめず、あらゆる手を尽くすしぶとさと、すばやい意志決定と実践するスピードをもとに、成功の確率を高める努力を24時間、365日続ける。常に行っていることは、可能な限り多くの正確かつリアルタイムの情報を持ち、分析する。データを大枠でみて、裏側を読み、自分の想定した範囲かをチェックする」

 この思いは、2018年6月に会長になった後も、変わらない。牛後ではなく鶏口になる目標は、果たした。でも、「やると決めたことを、やり抜く」に終わりはない。

 米国から帰国して05年12月に書き始めた日本語と英語のブログ「テリーの徒然日記」は、会長になったときに一時休載したが、同年末に再開。仕事以外の話も入れた硬軟半々の内容で、閲覧者は多い。このブログは、ずっとやり抜くかもしれない。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2024年3月4日号

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