立春を迎えて早や2週間、春の足音は雪どけとともに歩みだします。凍っていた大地がゆるみ潤い始めます。「春泥」はようやく溶けてきた雪や、なかなか乾かない雨の後にできるぬかるみのこと。どろんこ道に靴が汚れてしまうことなどめったになくなった街中では、土の匂いや息吹を感じる機会が少なくなりましたが、大地は湿りを帯びて活き活きと脈を打ち出す時季を迎えています。
この記事の写真をすべて見るふんわりとした「霞」を生む「雨水」の鼓動
キーンと張りつめていた冷たい空気が春の気配をうけて緩み始めると現れるのが「霞」です。朝ならば「朝霞」、夕暮れならば「夕霞」、幾重にも立ちこめる「八重霞」、薄く層をなす「霞棚引く」など時間や状態によってさまざまな呼びかたが工夫されています。
≪ほのぼのと春こそ空に来にけらし 天の香具山霞たなびく≫ 後鳥羽上皇
「霞」は「春の使者」そんな雰囲気がただよっていませんか。春の到来を喜ぶ心が「霞」に託されているようです。出典は『新古今和歌集』です。
夜ともなれば「霞」は名を変え「朧(おぼろ)」となります。まず浮かぶのが「朧月」ではないでしょうか。
≪大原や蝶の出て舞う朧月≫ 丈草
ほんのりと靄に包まれ柔らかな光を発する月の姿は、春らしさの中にもなにか幻想的な雰囲気をただよわせる力を感じます。大地の目覚めにはじまる潤いが春のやさしさと機動力となるのでしょう。「朧」といわずとも「春」と頭に付けただけで、何かほのぼのとした気配を醸し出すことができるようです。「春月夜」「春三日月」「春満月」など春はまた月も見頃なのです。
2月の「満月」は今年「一番小さい」ってどれくらい?
2月「満月」を迎えるのは24日21時30分になります。この時の地心距離(地球の中心と月の中心の間の距離)は約40万6000キロメートル。満月としては最も遠いのですが、月が地球から最も遠ざかるのは翌日25日23時59分ということです。
反対に今年最も「大きな満月」が見られるのは秋、10月17日で地球からの地心距離は約35万7000キロメートルとのこと。その差は4万9000キロメートル、見た目で約12パーセントの差となるそうです。
満月の大きさに差ができるのは上のグラフが示すように、地球と月との距離が常に一定ではないことが理由です。月が地球の周りを公転する軌道が楕円形のため、月の1公転ごとに地心距離が増減して一定の周期を作りだしているのがわかります。
「小さな満月」と「大きな満月」の数字としての違いの大きさには驚きますが、広い宇宙の中でのこと、同時に見ることのできない私たちの目には、その違いを見極め感じることは難しいかもしれません。とはいえ太陽と月と地球、その他の宇宙のさまざまな仕組みの中で、私たちが月を楽しめるのは本当に素晴らしいことではありませんか。そして、実は満月の大きさも毎回違うのですよ、と教えてくれる天文学も楽しい学問ですね。
参考:
【国立天文台:2024年 地球から最も遠い満月】
霞の棚引く空で囀るのは「雲雀」
空から春を感じるといえば、やはり「雲雀(ひばり)」ではないでしょうか。古くは『万葉集』にも歌われています。
≪ひばり上がる 春へとさやになりぬれば 都も見えず霞たなびく≫ 大伴家持
空に舞い上がる雲雀、立ちのぼる霞におおわれる大和の盆地、奈良の都に兆す春の情景が余すところなく表されており、春の息吹を感じられる一首となっています。
「雲雀」はまたの名を「楽天(らくてん)」。晴れた空に鳴きながら天高く舞い上がるのを「揚げ雲雀」、昇りつめて鳴きを止めると一転して一直線に降下する、これを「落雲雀」と呼ぶそうです。春の空を気持ちよさそうに楽しむ姿は正に「楽天」といわれるゆえんでしょう。
≪空も野も広しと雲雀のぼりゆく≫ 川崎俊子
なんとも爽快な早春の景色が浮かび上がる一句です。季節の到来はこのような自然の中で、思い切り新鮮な空気を吸って感じたいものです。残念ながら近年は都市化が進みなかなか雲雀の鳴き声を聞く場所も少なくなってまいりました。だからこそ、私たちの方から季節を感じに出かけていくことが、大切になっていくのかもしれません。