――では今年の日経平均の値動きはどう予想していますか。

 高値は4万円を超える可能性もありますが、一方で、安値は3万2千円程度まで下げることがあってもおかしくはないでしょう。

――今後、本格的な上昇に向けて必要なことは何でしょうか。

 日本企業はまだ多くの無駄を抱えています。大企業であれば、いろいろな事業を抱えすぎている。事業の多角化を図るのは悪いことではありません。しかし、自分の会社にとって何が必要か、どんな事業をやるべきかをもっと厳しく選ぶ必要があります。

 また、一つの業種に企業の数がなお多すぎるように見えます。もちろん、規模の小さな企業が全部ダメということではありません。しかし平均的には、それなりの規模のある企業のほうが、生産性は高くなる傾向があります。企業の集約化を進め、生産性を高める余地があると考えています。

株主還元策ばかりに注目

 さらに、もう一段の成長を遂げるためにはしっかりとした事業戦略が大事です。最近は資本コストや資本効率への関心が高まり、自社株買いをはじめ株主還元策ばかりに注目が集まっていますが、資本効率を高めるためにはやはり、どうやって売り上げや利益を伸ばしていくかが重要です。

 資本コストや資本効率を考える上で大事な指標の一つに、投資家が投下した資本に対して企業がどれだけの利益を上げているかを示す「自己資本利益率(ROE)」があります。日本は9%程度にとどまり、米国の17~18%や欧州の15%などに比べて低い。少なくても12~13%程度まで引き上げる必要があるでしょう。株価も、そうした指標が高くなっていく過程で上がっていくのだと思います。
 
芳賀沼千里(はがぬま・ちさと) 三菱UFJ信託銀行受託運用部チーフストラテジスト。東京大学卒業後、1982年野村証券入社。87年に英ロンドン大学経済学部大学院に留学。野村総合研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、2019年に三菱UFJ信託銀行入社。21年から現職
 

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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