(c)2023「フィリピンパブ嬢の社会学」製作委員会

 大学院生の中島翔太(前田航基)はフィリピンパブを研究対象に選ぶ。そこでフィリピン女性ミカ(一宮レイゼル)に出会った彼は、ミカと付き合いはじめる。だが彼女は偽装結婚で入国し、パブ嬢として働いていた──。中島弘象さんの実体験を綴った原作に魅了された白羽弥仁監督が映画化した「フィリピンパブ嬢の社会学」。原作者の中島さんに本作の見どころを聞いた。

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 2017年に本を出版して1年後に白羽監督から映画化の話をいただきました。自分たちの話なのでなかなか客観的に観られないのですが、妻が横でずっと笑って観てくれていたので映画にしてもらってよかったなあと思っています。

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 フィリピンに興味を持ったのは大学生のときです。ゼミでフィリピンの方々と交流する機会があり話してみると気さくで仲良くなった。「日本に来る前の生活は電気もなかったよ」と聞かされて「そんなわけないだろ」と現地に行って「本当だ!」と衝撃を受けました。もっと彼らを知りたいとフィリピンパブで調査を始めました。

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 ただ「どんなビザで来ているの」などと質問しても最初は誰も教えてくれなかった。そんななかでミカに出会ったんです。初めて店の外で会った時に「偽装結婚で来ている」と教えてくれた。真剣に付き合いだした僕たちを見て彼女の同僚たちも僕に話をしてくれるようになった。一人の人間として向き合ったことで、これまで「フィリピン人」という枠にはめられていたのとは違う、僕が感じたままの身近な彼らについて伝えることができたと思っています。

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 初めはどこか彼女たちを助けたいという気持ちもありました。でも彼女たちを「弱い人」として見ていること自体が違うなと気づいた。僕は30歳近くまで定職がなかったのですが、それを別に「大変だね」という目で見られたくない。同じことですよね。

中島弘象(原作者)なかしま・こうしょう/1989年、愛知県生まれ。会社員の傍ら取材や執筆活動を行う。著書に『フィリピンパブ嬢の社会学』『フィリピンパブ嬢の経済学』。17日から全国順次公開(撮影/写真映像部・和仁貢介)

 24年のいまも日本で働く彼女たちの状況は変わっていません。ただ近年、フィリピンの経済成長は日本よりも遙かにすごく、妻の送金回数も減っています。フィリピンの夜の街でも「日本人は一晩で2万円しか使わないけど中国人は20万払う」と、みんな日本語より中国語を覚えていますから。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年2月19日号