着物に宝石はつけないもの
日本酒でもてなした、ベトナム国会主席夫妻との会見と昼食会。そこで雅子さまが着用していた着物も美しい。
淡い緑色の訪問着には、平安時代の宮中遊び「貝合わせ」の入れ物である貝桶や絵本といった吉祥文様が大振りに描かれている。菊や松、撫子に桔梗、藤といった四季の植物の柄も華やぎを添えている。泰三さんは「おそらく江戸友禅ではないか」と見る。
国家主席のタム夫人が着用したベトナムの民族衣装「アオザイ」にも、植物柄などの刺しゅうが施され、おふたりで優美な取り合わせとなった。
昼食会は成功だった。予定時間を45分もオーバーし、別れ際の玄関先で、両陛下と国家主席夫妻が7分間も話し込むほどの親密さをみせた。
今年2月にあったフィリピン・マルコス大統領夫妻との会見も、ほぼ通訳を介さず、英語で和やかな懇談が行われた。
雅子さまが選んだのは、かずら帯が配された訪問着。かずら帯とは能衣装のひとつで、鉢巻きのように頭に巻いて後ろで結ぶ細いひも状の布のことだ。雅子さまは、二重亀甲や重ね菱(かさねびし)、竹や菊が描き出されたかずら帯で雅な装いだった。
先の高橋泰三さんは、雅子さまの装いに込めた思いをこう見て取る。
「末広(すえひろ)と呼ばれる縁起物の扇子も、左胸の正しい位置に差しておられる。また、園遊会のときもそうでしたが、帯留めもアクセサリーも身につけていらっしゃらないのはさすがです」
本来は、帯留めや宝石は正式な場ではつけず、観劇や食事会などおしゃれとして和服を着る場合に楽しむものだという。