京都の着物には、薄く削り出した貝の真珠層を糸状に細く切って帯や着物に織り込む「螺鈿(らでん)織り」と呼ばれる技術がある。金の合金を1万分の1ミリの薄さまで延ばす石川県の金箔や各地の染めや織り、刺しゅうなど、着物は日本の伝統技術そのものだ。
「着物は、きらきらと輝く螺鈿織りや金箔、刺しゅうといった技巧が装飾そのものでしたから、石の宝石は必要なかったのです。身につけたとしてもせいぜい、真珠の指輪くらいがよろしいかと思います」(泰三さん)
雅子さまの真珠の指輪
接遇する立場である雅子さまの和服の装いは、いずれも控えめだ。
令和皇室に代替わりをした2019年12月。ウズベキスタン大統領夫妻を招いての懇談と昼食会では、真珠の指輪を身につけていたが、以降の和装ではほぼ装飾品はつけていない。控えめだからこそ、「和」の美しさが際立つのだろう。
泰三さんは言う。
「不況もあいまって値段の張る品は売れにくい世の中です。日本の伝統文化を伝えてきた職人もずいぶん少なくなりました。そうしたなかで、皇后さまが、宮廷や各地で育まれた日本の文化に理解を示し国内外に伝えてくださるのは、職人にとっても励みとなるでしょう」
両陛下が発信する令和流の「和」のおもてなしは、これからも明るい話題を提供してくれそうだ。
(AERA dot.編集部・永井貴子)