2007年夏、シカゴ郊外で開催された第2回クロスローズ・ギター・フェスティヴァルにエリック・クラプトンは、スティーヴ・ウィンウッドともう一人、大切な友人を招いていた。ロビー・ロバートソンだ。
クリーム時代、若くして頂点に立ったクラプトンが、ザ・バンドと名乗るグループから届けられたオーガニックな音に衝撃を受け、新しい創造の道を模索しはじめたことは、この連載コラムで何度か書いてきた。とりわけその存在を強く意識し、嫉妬にも近いライバル心を感じたのは、ギタリスト/メイン・ソングライターのロビー・ロバートソン。さまざまに衝き動かされ、結局、クリームを解散させた彼は、ブラインド・フェイスやドミノスをへて本格的なソロ活動へと進んでいくことになるわけだ。
その後、『ノー・リーズン・トゥ・クライ』、『オーガスト』、《チェンジ・ザ・ワールド》、あるいはザ・バンドのフェアウェル・コンサート『ザ・ラスト・ワルツ』などで、エリックとロビーは、それぞれの道をクロスさせてきた。ロックンロール・ホール・オブ・フェイムのパーティー(93年)で、クリームの3人を説得し、一夜限りのリユニオン・ライヴを実現させたのもロビーだったらしい。
とはいうものの、なんとなく「付かず離れず」という印象の交流ではあったのだが、クロスローズ・ギター・フェスでの共演が大きなきっかけとなったのか、2011年春、ロバートソンにとって約13年ぶりのニュー・アルバムとしてリリースされた通算5作目『ハウ・トゥ・ビカム・クレアヴォヤント』にクラプトンは、かなり積極的なスタンスで関わっている。ちなみに、タイトルは「いかにして深い洞察力を持つ男となるか」といった意味。いかにもロビーらしい、神秘的なタイトルだ。
クレジットではあくまでもゲストの一人という扱いになっているが、クラプトンは全12曲中7曲に参加。二人で書いた《フィア・オブ・フォーリング》ではリード・ヴォーカルを担当し、また、アコースティックなインストゥルメンタル《マダムX》を提供するなど、作品全体に大きく貢献している。デュオ・アルバムと呼んでも差し支えないような仕上がりだ。2歳上の友人を支えながらクラプトンは、ようやくここにたどり着けたという、深い感慨を覚えたのではないだろうか。
はじめて聴いた日からずっと耳から離れずにいるのが、二人が渋いギターのかけあいを聞かせる曲で、「俺はここで降りる」といった意味の《ディス・イズ・ホエア・アイ・ゲット・オフ》。ザ・バンドに触発されてスーパー・ギタリストの座を降りようとしたクラプトン。絶頂期にあったザ・バンドに自ら終止符を打ったロバートソン。二人の音楽家の物語が、そのギターの響きのなかから浮かび上がってくる。[次回8/26(水)更新予定]